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小説「こはねとサンタクロース」5

こはねとサンタクロース 5

著/秋月十紅

それから、数時間。

何時間たっても両親は戻ってこなかった。

昨晩から外出したきりなのだろうか?

それとも心羽が起きる前に出掛けたのだろうか?

今朝の出来事を話したくて逸るも、

その答えは夕刻になる頃に全て知る事となった。

それは、お昼前突如として押し入る刑事と警察官。と、両親。

違法薬物の所持等で現行犯逮捕されたという両親は、

家宅捜索の中で、幻想でも見るような細い目で心羽を見つけ、

「あんな子知りません!」

「出ていきなさい、他所の子は出ていきなさい!」

常軌を逸脱した叫び声を上げた。

「こはねだよ? こはねだよ? こはね……」

心羽は小さく震えるように首を振り細い声で何度も数えきれない程自分の名前を口ずさんだ。

しかし、両親は『知らない子』『自分達の子ではない』と完全否定しつづけたのだった。

「こはねです……」

 もはや唇から外には漏れずに口腔内で響くまで。

その場に居合わせる警官たちは皆言葉を失っていた。

遠くの者は、薬物が見せる幻覚に話しているのだと思ったのだろう。

近くの者は、異様に華飾されたドールハウス空間を覗き見て驚いていたのだろう。

傍の者は、その部屋の中心。豪奢なベッドの上の精巧な人形を見るなり叫び出した容疑者に驚いたのだろう。

しかし、本当に驚きを与えたのはその精巧な人形が精妙な人間である事実。

皆、絶世の童女に息をのみ、狂うようにそれを否定する容疑者とを言葉なく見比べていた。

そんな中、困惑を隠せない心羽は傍目でもわかるくらいに震え顔面蒼白な面持ちで玉のような汗をかきはじめミルクティ色の髪を丸いおでこにはり付け、胸に手をあて肩で息をしていた。

そして、場の空気が読め出した警官の一人が心羽を小脇に抱え両親から遠ざけた。

その時に腕の注射の跡や副作用と思われる発疹の跡を発見。

そのまま警察で保護される事が決まった。

 数日後、心羽の両親は望まない性別だっただけで出生届けを出さなかった事。

 性差ない容姿を神様から与えられていても尚両親に許されなかった事が世間の知る所となった。それは、

『無届出生児だった幼い美人! 心羽ちゃんは薬漬けで育った?』

『書類上、子供の居ない家庭で薬物を打たれ続けた少女の五年間』

等と何処からか漏れた情報により週刊誌に記事が出たからだ。

心羽は、薬物反応の結果あっさりと両親と引き離さる事が決定され、施設で養子縁組みを待つ事になった。

しかし、すぐに出る事になったのだ。

それは皮肉にも一部の報道協定を無視したマスコミによるスクープ記事が流れたからかも知れない。

それが幸いしたのだろうか。

優しそうな老人が引き取りを申し出てくれたのだ。

その老人は、旧華族の家柄だという事もあり心羽の受け入れが決ってからは心無いマスコミ報道も収束に向かった——。

男の子だったという事実は心羽の胸の奥深くへ。

お腹を痛めて産んだ母親と自分では女の子を欲しくても産めない父親以外は。

誰一人漏れず、心羽を女の子として愛で始めた。

*

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