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小説「ヒイラギとツバキの関係」6

ヒイラギとツバキの関係 6  著/秋月十紅

  *

 

 帰宅後、姫依はさっそくビアンカの部屋へ向かった。

「くぅ〜」

穂乃香の雄叫びがリビングから漏れてくる。素で媚びない美しさを持っている彼女からは想像出来ない、駅のホームにある立ち食いうどん屋でおっさん達が一日の労を労りあう挨拶のような雄叫び。きっと缶ビールを呷り男みたいに被りを払う仕種付きだろう。

晩ご飯は、アルコール類無しで本場の美味しいナポリピザを堪能したものだから禁断症状が出たのかも知れない。帰路の車中「ビール飲みたい。あぁ……車、乗ってくるんじゃなかったわ」と何度も繰り替えし言っていた。

「ひよりちゃんも、飲めたらいいのにね〜」

さっきまでソファの上で胡座をかいて缶ビールをあおっていたと思ったら、姫依の横に立ち年始にしか逢わない親戚の叔父さんのように恨めしそうに言い放った。

そして、もう一度缶ビールをあおって満足そうに瞳を濡らしながら微笑みを向けてくる。

「二十歳まで待ってくださいね? それと、アルコール弱い方なんだから飲みすぎに注意してください」

 姫依は、一本指を立てて既に顔がほのかに赤い穂乃香のピンクのルージュへ近付ける。

「大丈夫〜もうお家の外でないもん——」

恐ろしい程に美人の顔付きで、酔っぱらいになりかけている自覚のない叔父さん穂乃香は、着崩れたパンツスーツが異様に似合い、男らしく姫依の細い肩に手を回す。

パリッとしたダーク色のジャケットの前ボタンは開かれ、光沢のある細いネクタイは、ゆるゆる。大きな衿付きのブラウスは、大きくV字に開かれている。

穂乃香との身長差で姫依の目線の高さに、生肌。それは柔らかくしっとりしたキナリ色の上質な絹。健康的に盛り上がりを見せる薄い肌色からは甘い香水の香りが、微かな残り香として姫依の鼻腔を刺激する。

実は、姫依はそんな風貌に弱いのだ。

穂乃香の女性的に主張する胸の谷間に、弱いのではない。いや……それはそれで思春期の姫依にしては目のやり場に困って体温が上昇する……が、誰の趣向を引き継いだのかキュン死してしまう位に、その意表をつく弛んだ表情と着衣のバランス。

それに、アルコールが入れば出て来る姫依の前でしか出さないと思う女性にしては少し低く落ち着いた声が好き。正直、くらくらする。

「——口煩い役員達にも逢わないもん」

穂乃香の甘えるような声は耳元で。姫依は、結構な至近距離で潤んだ瞳を見上げた。

水分たっぷりに濡れた穂乃香の双眸には、少し朱がかった自分の顔が映っている。

頬紅を薄く塗った相変わらずの女振りが良くみえてしまう姫依が一本指を立てて穂乃香に注意しているポーズのまま、その自分を見ながら、

「リ、……リビングで座っててください。ビアンカと少し遊んだ後でちゃんと伺いますから」

どっくん。どっくん。言いながら自分の小さな胸を打つ心臓の音を聞き、くらくらする意識の中から我に返るまで一瞬フリーズしてから穂乃香をリビングへ追いやった。

し、しっかりしなきゃ。か、かーさまの趣味? それとも、と、とーさまの趣味?

心でも噛みながら、男らしく美しい女性のアンバランスな容姿で甘言を言う穂乃香の残像に対して、姫依の男の子ゾーンを刺激するオーラから目を背け小さく気合いを入れて、イタリアングレーハウンドの子犬、ビアンカと面と向かう。

「姫依にはピーチネクター用意しておくからね〜一日働いた愚痴でも聞きなさい」と、扉越しに穂乃香の声が漏れてきて、それに軽く返事を返した。

穂乃香は、姫依と同居しはじめたその日でさえピーチネクターを握らし自分を曝け出すように、今日出逢った仕事先の人の話しやプライベートの事まで話し出した。

その時、姫依は今のビアンカのように大人しく座って必死に穂乃香の目を見たものだ。

そして、穂乃香は、緊張する姫依に気遣いながらも昔からの知り合いのように、遠慮なく一方的に話し出した。繰り出される言葉は素晴らしく男振りが良かったのが印象に残っている。

その演説にも似た話の中で時々見せる美しい笑顔は、本当に心地よく安心を紡ぎだしてくれた。もちろんその時は、だらしなくゆるんだ服装ではなかった。

しかし、あの長い時間をかけてドロッとした甘酸っぱいジュースを飲んだ思い出は、今では日課になってお互いのコミュニケーションの場になっている。

お酒を飲む量に比例して目の潤いが増し桃のように頬を染める穂乃香という人間はきっと『人を信じる事から始める』そういう付き合い方をする人なのだと重ねる会話を通じて思った。

今、姫依と同室内のビアンカは、まだ馴れていないのだろうか、ゲージを開けても外に進んで出ようとしないで大人しく姫依を伺っている。

*

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