小説「こはねとサンタクロース」8
「こはねとサンタクロース」8 秋月十紅/著
***
例の聡明そうな彼女は自分の車らしき前で突然振り返る。
「これが私のトナカイよ」
「はい?」
濃い色のパンツスーツに細い光沢のあるネクタイ姿の堅い印象をうける服とは裏腹に、柔らかな笑顔を浮かべながらトナカイと呼称する車を目一杯両手を広げて紹介する。
そんな彼女に心羽は、間髪入れずに疑問の相槌を返した。
いきなり予想外な言葉を発した茉莉は、いきなり柊翔に心羽の事をよろしく頼まれた形でのお付きの人。その彼女は柊翔に親睦を深める手始めとして学校まで一緒に登校するように指示を受け、部屋を出て終止無言でここまで着たのだ。当然、相当気分を害していると、きっと迷惑だっただろうと考えていた矢先での随分飛躍した発言に驚いたのだ。
「あ! そうか、ごめん。トナカイは鼻だけが赤いのよね? うん」
「……そうですが、そんな事を聞いてるのではなくて」
トナカイから離れない彼女。
形がよく柔かそうなピンクの口元に細い指先をあてたまま自問自答する茉莉に、腰あたりから見上げる格好のまま寡黙な感じで冷静に早口で突っ込んでみた。
そんな彼女は、良く見ると薄い化粧だけの小さく整った顏をしてる。ダークブラウンの髪は太陽の光りで透き通り象徴的なのが大きく分けた前髪に大きめな銀の髪止。
丸いおでこと銀の髪止は太陽の光りを受け、眩く輝やいている。
「と……トナカイ! 私のトナカイなの!」
思考が一巡したのか爽快感溢れる笑顔で、とりあえず車をトナカイだと言切った。
……聡明そうなのは見かけだけか。
心羽は、思いを隠さず半眼を作り茉莉の発言に対し理解不可能と言わんばかりに眉を寄せた。茉莉は顔の横で綺麗に指を一本たてて言切ったままフリーズ。間が開くにつれ突っ込みを待っているという感じなのだが、それでも、歳が倍程離れた茉莉をひたすら見上げた。
「……」
「……」
少し冷たい風が二人の間に吹き、心羽のミルクティー色の髪とワインカラーベースのヴィクトリアン調の洋服。フリルの束を優しく揺らせた。
「……何処がトナカイやねん! とか言ってよ」
疲れてきたのか綺麗に立てた指が折れ曲がり頬にピタリと指をつけた茉莉は、柊翔の部屋で見せた最高に視感度が高かった慈愛に満ちた笑顔ではなく困った表情にを浮かべて頬を膨らませている。
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