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夜を抱える人達の日向であって下さい。1

夜を抱える人達の日向であって下さい。

著/秋月十紅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音がない、動かない。

精妙な家具に囲まれた空間。

 

 肩まで伸びた蜂蜜色に輝く髪が、さらさら揺れる。

普段白く澄んだ身体は、今は少し桜色……

汗ばむ華奢な身体。

 

ボクの影だけが—————

 

ベッド脇の鏡が、跪き涙を浮かべたボクを曝け出す。

「……今日も一人じゃないんですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   Ficata 七夜ひなた 

 

 

都会ではないが、歴史深い京都市の街の中にアウロラーレはある。

アウロラーレとは古典様式で建てられた正面両脇にトスカナ式柱頭があり重厚な雰囲気が漂うテナントビルの名称。

ボクは、可愛らしい装飾がされた教会みたいなビルと思っている。

 

今日も賑わいを見せる一階のテナントの美容院を横目で見つつエレベータホールへ向かう。

床は大理石のタイルが敷き詰められファサードのトスカナ式柱頭の重厚感を引き継ぐ。

「ふぅー眼鏡も疲れますね」

エレベータの前で独り言を響かせながら両手で眼鏡を直す。

すると突然後ろから肩口に手を差し込まれ衝撃のあまりに声をあげてしまった。

「きっ……」

 きゃっ! って言いかけてしまったじゃないですかー。……半分言っちゃったけど。

甘い香りのするふわふわであたたかい体温が背中から伝わってきた。

見なくても分かるこの香水の犯人に向かって抗議の声を上げる。

「だっ……抱きつかないでよ! えりこお姉さん!」

は……恥ずかしい声だしてしまったじゃないですかー。

「おかえりっ! ひなたちゃん! 今日も仕種が可愛いね〜」

頭一つ上くらいから優しい声が耳に届く。

やわらかな声とふわふわの甘い香りのえりこお姉さんが、ボクの肩口から細く綺麗な手を差し込み抱きつく様に胸の前で腕組みしている。されるがまま顔だけ傾ける。

ちょうど照明の悪戯でいつもの整った顔立ちのお姉さん顔は、はっきりと見えないけど、ぼんやりと見える顔は桜色に染まり口元を優しく緩めてボクを見下ろしている。

えりこお姉さんを眼鏡の隙間から上目遣いで睨んでから剥れた声を出す。

「きゅ……急に抱きつかないでよ! 心臓がどきどきするじゃないですかぁ〜」

「急じゃなかったらいいんだ? 今晩寄ってくからね!」

即答で揚げ足を取り、あたたかい体温が離れていくと同時に今晩の約束を一方的に決めて行く。そして甘い香りだけ残して美容室[GANMMARE]ジャンマーレへ戻って行った。

日頃からスキンシップは大切なのって言う事を有言実行してますね……

さすがに店のモデルもしているだけあって後ろ姿も綺麗。

腰まで延びた美しい髪がお店のスポットライトに照らされて優雅に揺れている。

「もうっ!」

……自分勝手なんだからぁ〜

夕方からの予約客で賑わう店内へ向かって文句を言う。

 

ポーン『一階です』

エレベータが開くとアンティークな額に収められた案内板が目に入る。

一階は、美容室[GANMMARE]ジャンマーレ。ニ階「貸衣裳[VESTIRE]ヴェスティーレ」三階は「近日オープン! リラクゼーションサロン」四階は、七夜デザイン事務所と書かれてある。

三階に新しく「リラクゼーションサロン」が入ったので、四階の七夜デザイン事務所の唯ちゃんに昨日頼んで作ってもらいました。

流石に凝ってますね……あはは。

その新しい案内板に背を向けエレベータを閉じ、階数ボタンの下にある蓋を開けると『七夜ひなたのお家』と書かれ、ボクに似たイラストが添えられていた。そして階数ボタンを押す。

「唯ちゃんてば……」

唯ちゃんは、とーさまが経営していたデザイン事務所で働いている。

ボクと同じ高校に通学している頃からアルバイトとして仕事を手伝ってくれていた。

身長はボクと変わらない百五十センチくらい。ショート気味のパーマスタイルで「私、仕事できます」オーラが出ている大人な雰囲気なのに砕けて笑う彼女の顔が目に浮かぶ。

あの人、ボクが小学生の頃から知っているから二十半ばから三十あたりかなぁ……

唯ちゃんと歳が離れているのに仲が良かったのがジャンマーレで働く抱きついてきたスタイリストのえりこお姉さん。

そのおかげでボクとも仲良しになれたんだけど、どこで知り合ったのかなぁ?

ポーン『五階です』

それにしてもここの人達は、とてもあたたかくて家族を失ったボクに親子姉弟みたいなに接してくれている。

そしてアウロラーレは、ボクの家。両親の残した形見。

四階のデザイン事務所を経営していた両親の遺産として経営権とビルの所有権を相続して、このビルの五階を自宅として使っている。

でも、ボクは十七歳なので親戚の叔父さまに経営を委託して生活費は家賃収入(叔父様管理)自由のお金は、ここのテナントでアルバイトして稼いでいます。

 

「ただいま帰りましたぁー……」 

 いつも挨拶をしてから入る事にしている。

自室へ向かいながらリビングで、えりこお姉さんに手入れしてもらってる肩まで伸びた蜂蜜色の髪に引っ掛からない様に丁寧に眼鏡を外す。

多少見えにくいけど裸眼でも大丈夫。

自室へ入り着替えているとベッド脇の鏡にボクが映る。

かーさまに似た蜂蜜色のさらさらした髪の毛に華奢な幼児体型の体。

「かーさま、もう少しオトコノコらしく産んでくれれば良かったのにー……」

 鏡に映るボクが拗ねたように言う。その姿があまりにも少女然としている事に気付きあわてて目を逸らし業とらしく「ふんっ」と鼻で笑って誤魔化した。

 オンナノコに見間違われないように眼鏡をかけているけど、心の奥ではこの華奢な体もオトコノコにも間違われて告白される容姿でも、このボクを産んでくれた親には感謝している。

 特に、親を失ってからは……

 どんどんかーさまの若い頃に似ていくボクが両親の愛の結晶である事を証明してくれているから。

そんな事を思いながら、えりこお姉さんが来るのでリビングから掃除機を掛ける事にした。

 えりこお姉さんが来てくれるって事は、晩ご飯作ってくれるのかなぁー楽しみ! 

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