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夜を抱える人達の日向であって下さい。4

著/秋月十紅

   〜Confidenziale  カゾクのカタチ

 

 

……あれは騙したのかな〜? 

清清しい大型連休開けの気持ちいい朝、先日の出来事を思いながら登校している。

 小高い丘の上にあるロココ様式でドイツのヴィース巡礼聖堂に似せて建てられた白壁にオレンジの寄せ棟造りの校舎がある。窓枠など細部にわたり細かな装飾がされていて女性的で優美な印象を受けるプロセッコ・ルカーニア学園の校舎には新緑が溢れている。

それは、ひなたが住んでいる隣街にある。えりこお姉さんも唯ちゃんも通っていた学校。

素敵な環境でデザインを教えてくれる比較的珍しい学科がある事で有名。

 そんな学園の校門に一人の学生が立っているのが見えた。

眺望するかのごとく、端正な顔立ちで長い縦ロールの髪が印象深い隣のクラス委員長さんが校門でボクを通さない雰囲気を振りまきながら見下ろしている。

 勝ち気な態度でカノジョがすれ違い様に鈴を転がした様な涼やかな声を放った。

「七夜ひなたさん……。口紅」

とっさに口元を抑えてしまってから(しまった!)と思っても後の祭で、全身の体温が地面に吸い取られる様な感覚に襲われた。

 何か言わないと! 何か…… 

ボクは、必死に平静を装いながらも目が見れず流し目で、

「と……とっ隣のクラスのいいんちょさんの桜庭芽美ちゃん……ですよね?」

見事に鎌をかけられたちゃった!

ボクは、思いっきり動揺した声で顔見知りなのに変な事を口走ってしまった。

芽美ちゃんに見下ろされ、縦ロールが風に揺れる音が聞こえるくらいの沈黙に頭が白く飛ぶ。

ボクは冷や汗をかきながら回答を待つしかできない。

「この間の例の事、オフレコでお願いしますわ!」

芽美ちゃんは恐らく怒りによって頬を桜色に染めながらも直截に言い放つ。

ボクの方から本来はオフレコをお願いするのに……?

困惑を深めるボクは返す言葉もなく硬直することしか出来なかった。

少し、芽美ちゃんの大きな潤んだ瞳が揺れたけど目を吊り上げて更に言葉を続けた……

「あの……例の事です! そうしないと芽美もだまっていませんよ?」

だまっていませんよ?

冷静な判断が出来ない状態でもはっきりと警告の言葉に含まれる脅しには敏感に察知することができた。警告と同時に周りが耳の血管の悲鳴で周りの音が掻き消される。

どうしよう……どうしよう……えりこお姉さん!

そんな戸惑いに目を回していると芽美ちゃんが目を閉じている事に気付いた。

その隙に――…… とりあえず逃げよう!

ぜっ全力で駆け抜けよう!

ずれていた眼鏡を髪に引っ掛からないように両手を添えて直しながらそろ〜りと足を進めさせた瞬間、芽美ちゃんが片目だけ開けた。

目が合っちゃった……

なんか思い詰めた顔から意を決した顔へと変わっていく。

「あなたがその気ならわかりました。私も考えがあります! これからあなたは私と逢う時は……か……必ずその……おっ……女の子として逢いなさい!」

 耳の傍から聞こえる思いもしないお願いに泣きそうだった。

 

 *

 

天に一番近い所に、初夏の香りが遍く 『さらっ』とした雲が浮かんでいる。

 溢れる山の景色が美しい。

遠くで鳥のさえずりが聴こえてきそう。

 新しい命が大地に芽吹き、全てに生きる力を分かち合う空気がある。

自然に囲まれ日溜まりにボク達アウロラーレのメンバーがいる。

その場にいるすべての人を癒している—— はずだった。

 天国のかーさま。とーさま。ひなたはもう少しでそちらに伺うかもしれません!

 ぼんやりと手が届きそうな雲を見上げて下瞼に涙をためて想う。

ギュイィィィィーーーン!

強烈な加速の中でターボの過給音と唸りをあげるエンジン音を車内に響かせ、鼓膜を刺激されながら大自然の林道を駆け上がる。新緑の景色が高速に流れている。

「お……お姉さま……お願いです。……す…スピードを落して下さいませんか?」

 ふんわり甘い香りを漂わし涼しい顔でタイトなコーナーを責めているえりこお姉さんに向かってお願いをしてみた。

ボクはランチア・デルタ・インテグラーレというその道では知らない人はいない名車の助手席で長い蜂蜜色した髪の毛を震わしながら、アッシュ系ブラウン地のチュニックワンピースを着せられ腰下には三段フリルとベルトが付いてトータルに見てカッコよくて可愛くまとめられている。

その洋服のスカート部とブーツの隙間からは、膝と白い太股が露になっていて恐怖の余りに内又になって、右手でスカートの裾を摘み左手と上半身全体を使ってシートベルトにしがみついてる。

右手の力を緩めてしまうと可愛いリボンが付いたショーツが見えてしまいそうです!

余りの加速にぺろってフリルが捲り上がってしまいそうで怖い――

 えりこお姉さんはアクセル全開でターボタービンを回しブーストを楽しみながらアクセルのオン・オフで(パシュー)と高圧の空気が抜ける甲高い音を響かせ小気味良くシフトを決めていく。

「父の車達を動かして欲しいって言ったのひなたんでしょ?」

冷静に言いながら後続を気にしてかルームミラーを見て上気しているえりこお姉さん。

「……うっ……(パシュー)……うぅぅぅ……(パシュー)……ん」

 強烈な加速とWRCさながらのドリフトに喉から声が漏れる。

バックスキン生地のバケットシートへ体が埋まる度に、スカートのフリルを摘む右手を手放してシートベルトに抱きつこうか? 抱きつかないか?  

羞恥心と恐怖心で頭がいっぱいになり「あっ……うぅぅ……あっ……うぅぅ」と変な声が口から溢れながている。

他所行きのお気に入りのブランドの眼鏡が瞬きの度に涙で汚れようが、気にしていられない緊張の一時を過ごしていた。

「いいか……げ――――んに……」

あまりの恐怖にすがるように文句を言おうとえりこお姉さんの腕を掴んだ瞬間、肩ごしに見える美しい景色に言葉を失った。

うわぁー!

緑の景色が裂け太陽に輝く湖が眩しく目に飛び込んできた。

煌めく光彩に目を細くして抗議の感情も綺麗な湖に吸い込まれた。

「キレイです!」

 瞬間、歓喜の声が出る。    

暫く直進なのでみんなついて来てるか心配でドアミラーを見てみると……

ボク達が乗るボンネットが膨れ上がって力強いブリスタフェンダーのランチア・デルタ・インテグラーレの後ろに、男前な顔立ちに妖しい雰囲気を醸し出しているマセラティ・ギブリ。 

運転する唯ちゃんが手を振っている。

次に逆三角の穴に左右3個づつライトがある甲高いエンジン音を奏でるアルファロメオRZが続いているのが見えた。

「こんな凄い運転、みんな何処で覚えるのかなぁ?」

 インテグラーレのエンジン音で掻き消える様な声で問いかける。

四角いロッソ(赤)三台縦列に並んでんで走ってる! かっこいい!

そんな車達は煌めく緑の世界に赤い軌跡を描きながら山頂目指して走っている。

 ボクは、なんだか嬉しくて両足をぱたぱた動かしながら、えりこお姉さんを見つめた。


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