« 上海メモ② | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。7 »

夜を抱える人達の日向であって下さい。6

著/秋月十紅

  * 

 

 ゴツッ! 車内にえりこお姉さんの短い悲鳴と共に鈍い音が響く。

景色を楽しめるくらいに速度を落してくれた事によって、完璧に気を抜き仰のいていた所いきなり車体が上下に揺れ、ボクは激しくダッシュボードに膝をぶつけた。  

「イタっ……」

スカートのふりふりから手を放し、さっきまで白かった膝に手をあてて痛みに堪える。

頬を膨らませてすりすり撫で回しながら甘い香りのする方を見た。

「ごめん! 大丈夫だった? 余りにもひなたちゃんを見過ぎ……ふっ不注意に石を踏んでしまって!」

 えりこお姉さんは右手をぶんぶん振って言い訳を始めた。

 本当に、嘘が付けない人ですね。

「あっ……もしかして。ちらちらルームミラー見てたの後ろの唯ちゃんや綾乃さん達を見てたんじゃないんですね? ……ひゃっ……あっくっ!」

半眼で正直者のえりこお姉さんの失言を聞き逃さず突っ込むと同時に無防備なボクの白い太股の間にえりこお姉さんのつるつるした手が差込まれた。 

「誤魔化そうとして、え……エッチな事しないでください」

耳まで真っ赤になる恥ずかしさに耐え切れず太股を締め付けズレた眼鏡を片手で直しながらもう片方の手で打った膝を摩った。

膝みたいなら見せるのに、いろいろ恥ずかしいゾーンなんだからそこは……

「あっ……赤くなってるじゃないっ! 顔もそうだけど可愛いお膝が!」

「お膝って……あはは」

あたりまえだってばー わざとらしく笑い恥ずかしさを誤魔化す。

ちょっと擦りむいた膝をえりこお姉さんは、綺麗な細い手で被せるように包んでくれている。

「途中、レストランがあるからそこで手当てと、早めのランチにしましょう?」

えりこお姉さんの手を見ているとやさしい声が耳に入る。

 林道脇のロードサインに[Verbena]ヴェルベーナ/レストラン・ペンションという看板があがっている。

ヴィクトリアン王朝のイメージを与えてくれる素敵なデザインに思わず目を引かれた。

 

終止安定した走りに徹底したインテグラーレ。

ゆっくり緑が流れ落ち着きを取り戻す。

あー良い感じ♪

「あっ! 何か西欧情緒ある建物か見えて来ました! あれがヴェルベーナじゃないですか?」

自分でもはしゃいでいると分かる声を出し車窓から乗り出さんばかりに報告した。

「あれは、十九世紀のビクトリアン王朝時代の建物をモチーフにしたらしいよ。……綾乃のお得意様なんだって」

やわらかく優しい声でえりこお姉さんは教えてくれて、ウインカーを灯しシフトダウンをカッコ良くきめランチア独特なエンジン音を響かせる。

インテグラーレがウインカーを灯すと同時に後続のロッソ達は順にパッシングとハザードを使い了承した事を互いに合図し確かめあっている。

みんな胸がキュンってなる位カッコイイです!

天然の大小の石をバランスよく積み上げた門柱にアイアンで出来たアーチを潜ると、淡く濃淡をつけたベージュ色の洗い出し仕上げの駐車場があらわれた。

「豪奢な感じですねー」

格式高い空間の演出にボク達は感動を漏らした。

「さすがに桜庭開発。コンセプトがしっかりしたいい仕事してるね」

同じ学校の同じデザイン課程を卒業したえりこお姉さんは、ボクの視点でやさしく同調してくれた。

「あはは……」

 ――幸せです。

「なにニコニコしてるの?」

えりこお姉さんが優しく目を細めて聞いてくる。

さらさらと長い髪がえりこお姉さんの肩口から流れ、煌めいた。

ドキン…… ボクの華奢な胸を小さく叩く音が鳴る。

駐車スペースを探しているえりこお姉さんの耳のキラキラを見ながら素直に伝える。

「えりこお姉さんと家族になれている気がして幸せです」

「ふふっ……ひなたが素直に育って私も幸せよ♡」

するとボクの二の腕あたりを掴みながらやわらかな笑顔で本当に幸せそうに言ってくれた。

——みんな失いたくありません。

少し照れてしまって、窓の外に目をやる。

「あっ! 空冷のポルシェですよ! えりこお姉さん!」

「あそこには、ロータスエリーゼが止まってる!」 

ヴェルベーナの駐車場は、ポルシェやロータスなどセカンドカー空間とファミリーカー空間に二分されて停まっていた。

ランチア・デルタ・インテグラーレとマセラティ・ギブリと幌全開のアルファロメオRZはそれぞれ空いている所へ。

早速、女性ばかりが運転する四角く赤い車が続けて入ってきて「どういう人達だろ?」と好奇の目が向けられる。

実はこの三台は、両親が所有していた車で、遺産相続時に(両親の温もりがある)と感じたので手元に置いておく事にした。

強烈な個性が吹き込まれた命あるデザイン。どれもそれぞれに独特の魅力を放つ車として有名なのだ。ときどき動かさないと故障の原因になるのでこうして天気の良い日を見付けてはドライブに連れて行ってもらう事にしている。

 

WEB拍手です。また、クリックしてくださるだけでも嬉しいです!

  

|

« 上海メモ② | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。7 »

小説「七夜ひなたの……」」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 夜を抱える人達の日向であって下さい。6:

« 上海メモ② | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。7 »