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夜を抱える人達の日向であって下さい。3

著/秋月十紅

  *

 

 

「あれ? 寝たの? …………五分もたってないよ?」

精妙で妖精の様なひなたが規則正しい寝息をあげる。

白い顔に細く整った眉、写す者を虜にする大きく澄んだ双眼が潜む瞼に長い睫毛。

両親をなくして以来、特に母親の影を自分に重ねてか髪もあまり短く切りたがらない「まぁひなたちゃん専属スタイリストの私としては絶対に短く切らせないけどね」心で話している事を最後に声に出した。

はっと自分が今だらしない顔をしていると思い首を振ってからハサミを丁寧に腰袋に仕舞いポーチの中の携帯電話を探る。

……チロン♪

手早く携帯カメラを用意しこっそり撮影した。

本当にひなたちゃんは可愛いなー……

頭いじるとすぐ寝ちゃうんだからキミは。

 しばらく禁断の美貌を秘めるひなたを眺める事にした。

美しい彫刻が施されている時計の針は午後十時をさしている。

ビーダーマイヤー様式に統一された家具や食器などが並ぶこの部屋は、ひなたの両親の趣味で虚飾ではない精妙さが感じられる。

その精妙さまでもがアームチェアに腰を預け少し頭を傾け眠る少女、ひなたを育てているのかと錯覚する。

ひなたは、このアンティーク家具に負けず劣らず輝きを持っている。

今は食事とカットの用意も片付けひなたが後は寝るだけで済む様にしている。

私はアームチェアの脚に腰掛けて傍で眠る『お姫さま』の顔をちらちら気にしながら小説を読んでいる。

そろそろ帰宅しようと思いカットモデルのまま眠りこけたお姫さまを見て、小声で「帰るね」とだけ耳元で囁いた。

恐らくまどろみの中で「うん。今日はありがと。暇があったら父の車を動かして……くだ……さ……」とお姫さまは掠れた声をあげ再び規則正しい寝息を見せる。

小声で「く〜〜〜たまらんー♡ 反則だよ! ひなたちゃんを見守る会のメンバーでコレを魚に早速一杯飲みに行こう♡」と携帯電話を握りしめ独り言を呟きながら静かに玄関を閉めた。

 

 エレベータが来るのを待ちながら想う。

腰辺りまで伸びた蜂蜜色のウイッグに、悪戯でピンクのバラのカチューシャを被せてきたアームチェアで眠っているひなたを。

ぼんやりあたたかなランプが精妙な『お姫さま』を照らしている事を。

 

 ひなたは————

 両親にかかわりの深かった物。人を。

大事に、大事に失わない様に精一杯生きているんだと。

 

私も——……

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