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夜を抱える人達の日向であって下さい。5

著/秋月十紅

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今日は爽やかな天気になって機嫌が良い。

こんな日にはいろんな高級車が訪れるからだ。

自然溢れる瑞々しい緑の木々に囲まれた湖の北部。林道の中腹に、この喫茶・ペンションがある。

山頂のロッジも例外ではなく。

ドライブ・レジャーには最適!

学校に無許可で両親の経営する桜庭開発でアルバイトをしている。

まさかこんな地元から遠く離れた場所で知り合いに逢う事なんて考えられないし♪

自慢の長い縦ロールの髪を整え(受付係のおてつだい担当・めいみ)と書かれた名札を首から下げる。

かわいい名札とは対照的にエレガントなビクトリアンの制服に身を包み大人の落ち着きを心掛けて「お泊まりの方ですね? こちらですわ」となるべくスマートに接客をこなす。

早く駐車場で車見物したいですわ!

ここはお金持ちが沢山立ち寄る場所なので休日の時間があえばここへ来ている。

「お金持ちイコール、ガイシャ! フェラーリにマセラティ〜! あの美麗で繊細なボディーにワックス掛けして触り捲って……め……芽美が妖艶なカラダのラインを磨きあげたいですわ!」

 お客を背に従えながら小さく声に出して拳を握る。

こんな爽やかなに天気がよかったら……芽美は……想像しただけでイッてしまいますわ!

爽やかな自然の中でかなり濃い妄想に耽りながらも美化して「健康的です!」と叫びたい。

学校では言えないけど、車好きの両親に囲まれて育ってしまった芽美はクルマフェチなの♪

と誰に伝えることもなく心で花を振りまく。

芽美は出来るだけ涼やかな声で案内する。

「こちらが部屋(エミール)のカギです。お客様の乗ってこられたメルセデスのキーホルダーが目印です」

心のなかでベンツと言わずに(メルセデス)と言っているだけで酔い気味に案内している。

カギを手渡そうとした時、後ろのお兄様が、

「来る途中、ランチャとマセとアルファが丘の下のコンビニに止まってたの見た?」

「めっちゃイカツかった〜ホレる」

「乗ってたのみんな若い女の子やで!」

興奮気味に話している声が聴こえた刹那、

「め……名車がくる!」

 芽美は感激のあまり声を上げてしまった。

 …………

 場が静まり、はっと芽美は唇に手を添え小さく咳払いをした。

 お客様が言葉を失い覗き込んでくる。

「あの……お嬢さん?」

「しっ失礼しました。フロントへは内線一九〇二番までお願いしますわ」

 渡しかけで止まっていた動作を再開しカギをお客様に手渡した。

去り際に、律儀にビクトリアンのかわいい制服のスカートを摘み軽くおじぎし(エミール)を後にする。

不意に素晴らしい情報が獲られた幸福感で胸がいっぱいになっていく。

 芽美は、今スキップしているかもしれませんわ♪


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