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夜を抱える人達の日向であって下さい。10

著/秋月十紅

 *

 

朝のチェックインの案内が一段落した昼時。

肌触りの良いコール天生地が使われローズの花柄が入ったダークボルドーの生地のドレス。

ウエストリボンベルトからスカートの裾までふわっと広がっているここの制服。

一応、休憩中なので薄手のカーディガンを羽織る。

淡く濃淡をつけたベージュ色の洗い出し仕上げの駐車場で、自慢の長い縦ロールの髪を揺らして物色を始める。

デジカメ片手に……

「ああっ!」

「おおっ!」

「ん〜〜!」

回りを気にせずに思い行くまで車見物している。

遠方なので知人には逢いませんわー。と自分に言い聞かせ。

ジ——————……クオン……クオン……

このジーという燃料ポンプの音は! この軽めのセルモータの回る音は!

絶頂に達するかの様に気持ちが上り詰める。

ボボボボーーーブォォォォン!

低く響く特別な芽生えの音に簡明する。この妖しげな四本出しマフラーの排気音は!

聴こえたと同時に絶叫と共に走り出す。

「ビトルボエンジン! マセラティ!」

 大声を出して駆け寄っていく芽美に驚きを隠せない小柄でスーツを身に纏ったキャリアウーマン風の女性が目を丸めている。

「ギ……ギブリ珍しいでしょ?」

驚かせてしまった芽美を咎めもしないでスーツのボタンを触り気さくに話し掛けてくれた。

座高からするとそんなに背が高くないんだろうと想像がつく。

オシャレなパーマスタイルで素敵な印象を受けた。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」

またやってしまいましたわ。

反省し言葉の通り素直に頭を深く下げた。

あっ制服のままだった。

「もっ申し訳ございません」

 再度頭をさげる。

「……いいよ。珍しいものね。それよりギブリ好きなの?」

 小柄な女性は大人の優雅さあふれる雰囲気なのに子供っぽく屈託のない笑顔で芽美を思いやってくれた。

「はい! 特にデ・トマソ期のマセラティが……」

マニアックな話を初対面の人に話している自分が恥ずかしいのか、年上の優雅さあふれる雰囲気なのに屈託のない笑顔にあてられたのか頬に熱を持つ。

「詳しいんだねー。中も見る?」

……この方、やさしいですわ。

見ず知らずの他人を車の中まで案内してくださるなんて!

ありがとうございます!

「是非! お願いしますわ」

 駆け足で助手席の方に回り言葉に甘える事にした。

「うわ〜〜綺麗ですねー。天井も見える所殆どが革なんですねー。コレクターズコンディションですねこのマセは!」

ロッソ・マセラティにタンレザーという派手な組み合せ。

デ・トマソ期のマセラティ特有の金時計が輝くレザーとウッドの世界。

目に飛び込むもの全てがゴージャスに仕立てられている。

デ・トマソ期のマセラティはレザーとウッドの綺麗な固体は皆無と聞く昨今、かなりの極上車であると確信した。

「感動して貰って嬉しいわ。ここの子だよね? どう? ツレがいるから少しだけなら駐車場グルッと回る?」

「ぜっ……是非! お姉様!」

カチッと行儀よくシートベルトをしめ期待を胸に、手を握る。

 滅多にないチャンスを逃す訳にはいかないので甘える事にした。

「じゃ行くよ。 くー 縦ロール娘に『お姉様』なんて言われては女名利に尽きる!」

優しい手付きでゆっくり慎重にDレンジにシフトしギアを入れるお姉様。

カッコイイ!

少し腰が沈む。

期待に胸が高鳴る。

ゴニョゴニョ聞こえましたが………………いよいよ芽美も初体験♡

気持ちを抑えながら胸の前に手を持っていき短く返事をする。 

 スーツの生地が擦れる音が足元から聞こえ、ふんわりとブレーキを緩めるのが見える。

外は緑溢れる心地よい自然。

外とは別世界を主張するレザーの甘い香り、綺麗に磨かれたウッドパーツに包まれながら緩やかに発進する。

 






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