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夜を抱える人達の日向であって下さい。13

著/秋月十紅


 *

 

ボクは、再び緑の世界の中にいる。

クォオオオオオン!

アルファV6の管楽器の様な甲高いサウンドを奏で、ボクと綾乃さんの耳を刺激している。

それを広葉樹の葉一枚一枚が、幌全開のアルファロメオRZに響き返している錯覚の中で前方の赤い二台を睨む。

「……で、なんで芽美ちゃんがギブリに乗っているんですか!」

 助手席はボクの席なのに!

唇を尖らせ拗ねる。

先頭にマセラティ・ギブリの唯ちゃんと芽美ちゃんのペア。

次に午前中まで一緒だったえりこお姉さんの二台はターボの過給音をさせて加速していく。

「ひなたの知り合いって気付いてないの唯だけだったし……あの芽美ちゃん昼からオフって言ってたから強引に連れ出したんじゃない? ふふっ」

「……で、なんであんな所まで二台先にいってるの?」

あっと言う間に引き離され随分先にマセラティを追い掛けるようにインテグラーレがピッタリ張りついているのが見える。

せっかくみんなで山頂めざしてたのに——……

唯ちゃんのばか。

芽美ちゃんも普通断るでしょ? せっかくの家族水入らずなんだから!

………………それに。

えりこお姉さんの……ばか。

涼しい顔をして運転している綾乃さんに俯いたまま質問する。

「……で、なんで……なんで秘密の暗号を忘れているわけ!」

顔を上げ、頬を膨らませて綾乃さんを睨む。

耳の上の蛇のヘアピンを輝かせながらシフトダウンし少しスピードを上げた。

甲高いサウンドが増していく。

「ごめんね。まさか本当に……ひなたちゃんの知り合いに逢うなんて思ってもいなかったし……ひなたちゃんもでしょ?」

宥めるように言ってくれている。

こんな遠くまで来て知り合いに逢うなんて思ってもみなかったです。

 頭を動かして短く答える。 

「それに、あの二人は先に私達の分までチェックインしてくれると思うよ? ポジティブに考えようね」

……えりこお姉さんまでボク達を置いて行く事ないのに。

ばか。

「まぁ。唯は芽美ちゃんを喜ばす為にあんなに攻めているんだろうけど……えりこを取られた気がする? ふふっ」

綾乃さんは悪戯っぽく笑い、ボクの頬を突く。

頬を突く手が心臓を貫かれた様に悲鳴をあげた。

ボクは、震える手でフリルの着いた襟元を掴み動悸に耐えた。

「べっ別に! みんな……みんなで子供扱い禁止です!」

ぷいっと車外を見て、怒って誤魔化す。

ランチ前まで仲良く三台並んでいたのに……今、前には迷路の様な道だけが見える。

灰色の川に赤い舟。

取り残されていく…… そんな感覚に視界が狭まり一人になる寂しさが込み上げてくる。

えりこお姉さんが遠くに行ってしまうのかなぁ——……

綾乃さんの言葉が鼓膜に留まる。

空を見上げると相変わらず「さらっ」とした雲が浮かび、天高くに鳶が旋回している。

今は頬を突く手が頭を触ってくれている。 

お腹が満腹が原因なのか、綾乃さんが頭を撫でているのが原因か、すこし不貞寝を決め込む事にした。 

クォォォォォン!

アルファのエンジニア達の音響学を確かめながら、緑の世界に軌跡を描く。

綾乃の本気モードの走りの頃には、ボクは夢の中へと落ちようとしていた。

 

 えりこを取られた気がする? 

 

確かにえりこお姉さんとは、一番仲がいいです。

歳も一番近いし……

やさしい……

いつでも……

——……

何だか綾乃さんの手のひらで転がってるみたいです。






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