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夜を抱える人達の日向であって下さい。14

著/秋月十紅

 

 夜になり冷え込んできた石畳み風のスタンプコンクリートの駐車場に、マセラティ・ギブリとランチア・デルタ・インテグラーレと幌が被せられたアルファロメオRZが綺麗に並んでいる。

 アーリーアメリカン様式の本格的なカントリーハウス。

ホワイトシダーの淡く澄んだ人肌色の木が香る。

 山の自然と調和したホワイトシダーで建てられた贅沢なロッジ。

背が高い勾配に珪藻土のコテ仕上げの壁面にホワイトシダーの腰板。

柔らかく灯されるシャンデリアが金色にキラキラと煌めいている。

ボクと綾乃さんは、芽美ちゃんにバレるのを恐れて別れてロッジ内のフレンチディナーを満喫しきた。

今、二人とも呆然と部屋のドアの把手を握ったまま固まっている。

さすがに綾乃さんも、この状況には頭を抱えている。

「ひなたちゃん、この状況は正直つらいね」

「……で、なんで酒盛りしているの?」

 半眼になり、我慢できなくなり皆を咎める。

 本当だったらみんなで楽しいディナーだったのに!

「だって~昼、車お酒飲めなかったんだも〜ん」

唯ちゃんは、ビール片手ににんまり顔ではぐらかす。

食事が済んだらお昼のペンションまで送って行くと言ったでしょう?

「……で、なんでまだ居るのですか? 芽美ちゃんが……」

 半眼のまま、疑問を口にする。

「だって〜昼、熱心に車の事聞かれて嬉しくなって連れて来ちゃったんだも〜ん」

唯ちゃんは、ビール片手ににんまり顔で何度も聞いた事を言う。

もはや焦点すら合わない程に泥酔している……。

 ロッジについてからも、えりこお姉さんと綾乃さんに芽美ちゃんを送り返すように何度も言われていたのに!

「……で、誰があそこまで送るのですか! みんな飲んでしまって!」

半眼乃まま、重要な核心に触れた。

贅沢な空間に音が無くなる。

「……あ」

気付いてなかったのですか?

もしかして気付いてなかったのですか?

も〜〜〜〜〜〜〜しかしてっ!

いい大人が! 気付いてなかったんですね?

ぽかんと口を開けて、今は得意の笑顔でごまかそうとしている。

「あ……じゃないでしょ! こんな山奥にタクシーなんて頼めないでしょ? どうするんですかぁぁぁ!」

あ……やばい…………。

怒鳴って頭がぐらぐらする。

ボクも綾乃さんの飲酒を止めれなかったような……

 実は(ブランデー仕込みの梅酒が、かーさま、とーさまの好物だったんだよ〜ふふっ)の誘惑に負けてしまってボクも少しお酒を飲んでしまっている。

人の事が言えない……けど!

苛々するのです!

「えりこお姉さんまでお酒飲んじゃって……」 

えりこお姉さんは、こちらの騒ぎか聞こえていない様子で寂しそうに部屋の奥にある中庭を見ながらぼんやりと膝を抱えて飲んでいる。

あれ? どうしたのかな?

唯ちゃんと喧嘩でもしたのかな?

 芽美ちゃんは、唯ちゃんが先刻まで座っていた部屋の中央に置かれた皮張りのソファーに腰掛けてこちらを伺い、自慢の縦ロールを揺らしながらボクに近付いてこようとする。

「大丈夫ですわ。こかげさん! ここは芽美の父が経営するロッジです。先程こちらに泊まると連絡つけましたから、ご安心くださいませ。それよりあの三台はこかげさんのご両親むぐぐぐ〜〜〜!」

 ほんのり桜色の顔をした芽美ちゃんを、すかさず綾乃さんが回り込み口を抑えて後ろへ引きずる。

もしかしてキミも未成年の飲酒ですか?

クラス委員長が……

「……ボ……こかげは少し風にあたってきます!」

 日向の反対で木陰のこかげちゃんなんですね。

ボクは、ずかずかと足音を立てフレンチドア越しに見える中庭へ向けて歩きながら、芽美ちゃんから距離をとりつつテーブルの上に置いてあるブランデー仕込みの梅酒を略奪する。

外へ出る際にちらっとえりこお姉さんを見たけど、まだ中庭を見たままぼんやりしている。

……ボクが見えないんですか? 

「何ですの? きゃっ……んっぐぅ……」

「芽美ちゃん、ごめんね! ふふっ」

「ならぬお嬢さん! 鶴の恩返しって知ってる?」

扉の中から芽美ちゃんを阻止する綾乃さんとでたらめな唯ちゃんの楽しそうな声が漏れてくる。

 

 えりこお姉さん達が見えるウッドテラスの中庭、中央付近のテーブルにつく。 

チュニックワンピースの腰下には三段フリルとベルトが付いてある、その三段フリルのひらひらと赤茶色したロングブーツの間には、白く細い脚が覗いているのが見える。

 ボクは、ひらひらしたフリルを掴み股の限界付近まで摘み上げてみる。

認めたくありませんが、みんなの心をつかんでると思っていたのに……

「こんな格好までしているのに……バカみたいです」

キャスケットを目一杯深く被って、すとんとイスに腰掛ける。

 外灯がオレンジ色で、温かく照らして開放感たっぷりのウッドテラス。月明かりが夜の世界を照らしだし、無音の静かさでも生命が息づくざわめきが聴こえてきそうなくらいの神秘的な中にある。

ロッジの豪華な雰囲気とは別の自然の豪華さに圧倒される——……

ボクは、空一面に拡がる光の粒を眺めながら。

「星が落ちて来そうです」

 そう呟くと……ボクの細く白い腕に月明かりが一つ増えた。

星の光のように小さく。

 込み上げてくる波を押さえるように、グラスに注いである梅酒を喉を鳴らして一気に飲み干してから伏せた。

「なんだか…………ボクは一人ぼっちの空みたいです。昼から芽美ちゃんが入ってくるだけで……ボクは寂しいと感じてしまったんです」

 未体験のぐるぐるの中で、芽美ちゃんが口にした言葉を振り返った。

 最近は随分と強くなったと思ったのに、まだまだのようですね—— 

 もしかして芽美ちゃんに妬いているのかな……

『えりこを取られた気がする?』

綾乃さんが口にした言葉。

「……そんな恥ずかしい事言えません」

本当は、子供扱いされるの嫌じゃありません。

本当は、みんなからおもちゃにされるのも嫌じゃありません。

ちょっと可愛いお人形さんみたいな芽美ちゃんにみんなデレデレしちゃって……

みんな血の繋がった家族みたいに思ってたのに…… ボクだけだったのかなぁ?

なんでこんなに苛々するんだろ…… 
「……あっああ……ぐるぐるして来ました」

霞む視界の中、桜色に変わってしまっている腕に話す。

頬を染め、きっと情けない顔をしている顔を自分の華奢な腕にぐりぐりねじ込む。

蜂蜜色をした長い髪も一緒に揺らして顔を隠すように。  

深く伏せる。

熱いうなじに少し肌寒さが出て来た夜風が撫でていく。

「あっ……きもちいい……です」

——ひとりぼっちの空で、七夜ひなたの月は見つかるのですか?

 





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