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夜を抱える人達の日向であって下さい。15

著作/秋月十紅

   *

 

森の夜。

夜のざわめきは、目に見えない妖精が騒ぎ立てているからとお祖母様から聞いた事がある。

今、その音は広いウッドテラスの中庭で テーブルを囲むように見えている。

お姉様方におやすみの挨拶を終えた芽美は、ロッジの事務所へ帰る途中こっそり中庭に寄って帰る事にした。

どこかで逢った事のありそうなもやもやと罪悪感に苛まれて。

「こかげさん? 夜風は体にさわりますわよ」

オレンジ色の外灯に照らされて妖精並に現実離れした美しさを放ち規則正しく肩を揺らせている。

みんなに『姫』と呼ばれる子に手をかざす。

絹のような蜂蜜を一摘みすくい取りながら芽美は囁く。

「ご両親を亡くしてらしたのに……知らなかったとはいえ芽美は……」

うなじまで朱に染め、未成年が色っぽく寝ている姿に芽美は胸の高鳴りをおさえられずうなじに顔を寄せる。

そして音を立てないよう慎重に、お気に入りのヨーク部にギャザーが寄せてあるロマンティクなボルドーのカーディガンをかけた時、『姫』のうなじからブラックティーベース特有のラストノートが鼻腔をくすぐった。

「…………こかげちゃん……まさか……本当に……」

自分でも分かるくらい肩を震わす。

その刹那、無意識で駆け出す。

父親が来ていると思うロッジの事務所へ向かって。

 まさか、こんな事が現実にあるなんて!

 

  *

 

自然と調和したホワイトシダーで建てられた贅沢なロッジに小鳥のさえずりが木霊する。

ロッジの玄関の前に縦ロールの髪型を靡かせている芽美が立っている。

ひなたに羽織らせてくれていたカーディガンを手渡してから言う。

「昨日はごめんね。お構いもできずに」

私は芽美の瞳を覗き込む様に見た。

……気付いちゃったの?

 芽美ちゃんは、目を細めひなたが寝ている方を伺いながら挨拶もそこそこに話し出す。

「いいえ。こちらこそ朝早くから申し訳ありません。昨日はごちそうさまでした」

 終止目をあわせないまま言う。

「これから仕事ですので……それでは……」

芽美は、律儀に深くお辞儀をして迎えの黒塗りのジャガーに向かって颯爽と歩いて行く。

去って行く縦ロール娘を目で追いながら頬に手をあてる。

……気付いちゃったんだ♪

「またね。芽美ちゃん。ふふっ」

 朝の静けさに消え入りそうな声で呟く。

「さてと……」

ひなたを見てからから雑魚寝状態を見渡す。

テレビを付けてから、備付けのキッチンに立つ。

 

コトコト……グツグツ……

包丁でまな板を優しくたたく音とお味噌汁を作る懐かしい音がする。

かーさま、とーさま。

あの温かな日溜まりが蘇ってくる。

お気に入りのソファーに腰掛け天使のように微笑む。

確かにボクのかーさま。

確かにボクのとーさま。

ビーダマイヤー様式の彫刻が刻まれたテーブルに温かな朝食が用意されている。

香り豊かな味噌汁と少し歪なかーさまの握ったおにぎりが。

やさしく——…… あたたかく——…… 揺れている。

天使は、手を差し延べてくれる。

ボクは、甘えてお姫さまだっこを強請る。

食事が置かれたダイニングテーブルまで……

 

「……んっ」

 耳の傍で艶かしい声がした。

薄く目を開けるとボクの蜂蜜色をした髪がさらりと揺れ朝日に煌めいている。

えりこお姉さんのおかげで髪の毛は本当にキレイです……。

朝のやわらかな太陽に包まれ、白い素肌をより美しく輝かしながら。

よりやわらかく、より綺麗に照らしている。

ボクは、天使の子供としてここにいる——……

愛の結晶としてここにいる——……

 自分の髪が耳をくすぐり白昼夢から目覚める。

あれっ? 泣いてた?

何かに抱きつき腕が湿っているのに気付く。

久しぶりだ……こんな目覚め方をしたのは……

こんな姿見られたら、またみんなに心配させてしまう。無意識に手短な布で拭う——

「あ……あん♡ ひなたちゃん大胆♡」

おでこが触れるか触れない所にえりこお姉さんのくすぐったそうなやさしい顔があった。

目を細めたえりこお姉さんに、極上の笑顔を作って微笑み返す。

まだ寝起きで頭が回らない。えりこお姉さんの顔を見たら瞬間ほっとした。

説明できない直感の中で……

「おはようございます。なんでそんなに近くで寝てるんですか?」

 起き抜けの掠れた声で素朴な疑問を口にする。

「ひなたちゃんが、『お姫さまだっこしてぇ』って甘えたで抱きついてきたんだよ?」

甘くやさしい声と眼差し。

目を逸らさないでボクの目を見て、はずかしい寝言を告白する。

急に恥ずかしくなって体温が急上昇する感覚に犯される。

「それにお姉さん恥ずかしいの……」

えりこお姉さんは、頬を染め胸元に目を落した。

! ふんわりやわらかそうな谷間が覗いている。

「ひなたが握ってるの私のキャミソール……」

 ボクの手は、さらさらした布を思いっきり引っ張りマシュマロみたいにきめ細かなえりこお姉さんの谷間をあたたかな朝日の下に曝けて出しいる。

「わっ! ごめんなさい」

「いいよ♡」

慌ててキャミソールを放すと同時に、不意に頭の後ろに回された手でボクの頭を抱きかかえて、マシュマロの胸にボクの顔をやさしく押し込んだ。

ふんわり頭を撫でてくれながら、やさしく……やさしく……言葉を切って囁いてくれた。

「昨日はごめんなさい——……」

「寂しい思いをさせてしまってごめんなさい——……」

「一人にさせてしまってごめんなさい——……」

「せっかく姉妹水入らずだったのにごめんなさい——……」

 目元から熱いものが溢れてくる……

 えりこお姉さんのやわらかさの中で、あたたかくやわらな蒸気として……

ふんわりと甘い香りと甘い囁きがボクの胸に沁み渡る。

寂しかった思いをわかってくれたのですね。

何も言葉にしていないのに……

カゾクになれてるって事ですよね?

えりこお姉さんの生肌のあたたかさと気持ちに触れる。

 さらに鼻の奥がツンとする感覚に襲われ。

くぅぁぅ——……

声にならない喉の悲鳴をえりこお姉さんの胸の中へさらした。

「……うっ…………姉弟ですよ?」

やっとの思いで、強がりを言う。

そして、しばらくえりこお姉さんの背中に手を回して胸に湿ったあたたかさを伝えながら肩を震わせた。

「オンナノコじゃないひなたを発見しました……」

 えりこお姉さんはボクを真似た話し方をして、さらにぎゅっと力強く抱き締めてくれた。





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