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夜を抱える人達の日向であって下さい。17

著/秋月十紅

Comitiva  ~Compagna di scuola~ 桜庭芽美 (一)

 

 

清清しい大型連休開けの気持ちいい朝、ある人物を待ち伏せしている。

小高い丘の上にあるロココ様式でドイツのヴィース巡礼聖堂に似せて建てられた白壁にオレンジの寄せ棟造りの校舎がある。窓枠など細部にわたり細かな装飾がされていて女性的で優美な印象を受けるプロセッコ・ルカーニア学園の校舎には新緑が溢れている。

芽美が住んでいる街から少し離れた所にあり、唯お姉様も通っていた学校。

素敵な環境でデザインを教えてくれる比較的珍しい学科がある学園。

 そんな学園の校門に立ち蜂蜜色の髪をした天使を待っている。

腰に手をあて安定感抜群に少し足を開く。

所謂、仁王立ち。所謂、とおせんぼう。

制服の上には、オフホワイトの生地に裾元に美麗なシャンデリアの様な刺繍が入ったお気に入りのスプリングコートを着て、裾を風に揺らしながら。

狼狽えるお目当ての蜂蜜色の髪を持つ天使が目の前に立つ。

天使は、ブラックティーベース特有のトップノートが香る。確信した。

驚く程、冷静にひなたを見ることが出来、言葉をかけた。

「……七夜ひなたさん。口紅」

ひなたは、口を抑え慌てて腰へ手を隠す。

ずれた眼鏡から見せる長いまつげに、綺麗な双眼が揺れている。

「と……とっ隣のクラスのいいんちょさんの桜庭芽美ちゃん……ですよね?」

上目使いに(ばれたかな?)という顔を見せ変な質問して来る。

芽美には、動揺を隠せずに嘘の付けない人が目に写る。強引に切り抜けようと話を変えても、ここを通す訳にはいきません。

子供みたいに、手を広げて通過を拒んでから宣言するように言い放つ。

「この間の例の事。オフレコでお願いしますわ!」

そんな虚勢を張っても車で散々にフェチ狂いを見せた悪態にはずかしさが込み上げて来る。

ひなたは、弱々しく無言のまま綺麗な双眼が揺らせたままでいる。

「あの……例の事です。そうしないと芽美もだまっていませんよ?」

軽く脅す。

芽美の要求を聞いてもらう為に。

ひなたは、泣きそうに何かを喋りたそうに小さな口をぱくぱく動かして涙目。

……言葉を返す事も出来ないでいる。

か……かわいいですわ。

み……見ていられませんわ。

何の違和感もなく可愛い格好をしてた、ひなたを思い出す。

「こかげちゃんと一緒に、ひなたちゃんを見守る会に入ってもいいかしら?」

目を瞑り、腰に手をあてたまま言い方を変えて更に脅す。

ブラックティーベース特有のトップノートが流れ――…… 片目を開けて香りを追う。

丁寧に両手で眼鏡を直す仕種を見せながらの、忍び足が見えた。

その行為にゾクッっと背中を震わせ、何かが弾けた。

痺れる衝動に犯される。

残り香だけ置いて逃げようとするひなたの首に手を廻し耳元でささやく。

「あなたがその気ならわかりましたわ。私も考えがあります。これからあなたは私と逢う時は、か……必ず、その、お……女の子として逢いなさい」

お互いの体温がわかる距離で睨みつけ、下瞼に大粒の涙を溜めた『姫』のつるつるの顎を掴み鼻を鳴らす。

優勢のはずの芽美は、揺れた双眼を魅せる美少女に吸い込まれそうになった。

気合いを入れ直してから、言葉に酔うように言い放つ。

「顔を真っ赤にして可愛く泣いてもダメですわ! 許しませんわ!」

ゾクゾクする感覚を抑えられない。

ひなたは、耳まで赤くして逃げようと身を小さくした。

「逃がしませんわ!」

身長が芽美の方が少し高い。見下ろす感じで言う。

そして白いうなじを力一杯引き寄せ、蜂蜜色の隙間から見せる白く形の良い耳が目に入る。 

琴線に触れるとはこの事なのか……

目入った刹那、ひなたのぷっくりとした耳朶を噛み舌の先で虐めていた。

「あっくぅ……」

ああっ…… カンジテルノ?

ひなたの熱い吐息が自分の首筋にかかる。

全身が痺れる快感に視界が狭くなる。

体が火照る。

あんな可愛い格好しちゃって!

あんな綺麗なお姉様方に、どんな可愛がられ方されているのかしら?

敏感な体に聞いてあげましょうか?

「……今日、学校休みたい?」

ひなたは、耳まで真っ赤にした顔を小刻みに振って拒んでいる。

芽美は、背徳感とこの学校では自分だけが知っているひなたの秘密に酔っている。

「こら~! 校門で何をしている!」

 遅刻ぎりぎりの時間、疎らな校門では目立っているみたい。

 生活指導の先生が飛び出して来るのが見えて、『姫』を開放する間際に「午後五時に駅前の百貨店の屋上でお待ちしてますわ」と囁いてから腕を解いた。

「すみません先生。貧血を起こしてしまって偶然通りかかったひなたさんに抱きかかえていただいただけですわ。他意はございません」

 芽美は頭を抱えながら言うと「そうか。辛かったら保健室で休むといい」と言いながら遅刻の生徒を見付け走り出した。

先生に心の中で舌を出し、ひなたを一瞥してから生徒でにぎわう校舎へ向かった。

 

 ときどきドライブに誘ってね。

マセラティ、ランチア、アルファロメオをテカテカに磨かせてね。

友人に話せない車の話を沢山したい。

と伝えたかっただけなのに…………





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