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夜を抱える人達の日向であって下さい。21

著/秋月十紅

   ~Compagna di scuola~ 桜庭芽美 (二) 

 

 

 冷たいコンクリートで建てられた建物。

 オレンジが僅かしかない紫掛かったグラデーションの空。

人が疎らな百貨店の屋上。

芽美は、オフホワイトの生地に裾元に美麗なシャンデリアの様な刺繍が入ったお気に入りのスプリングコートを風に揺らしている。

「……遅い」

細く形の良い眉を震わせる。

栗色の縦ロールが冷たく靡く。

女性を待たせるなんていい度胸ですわ!

 一人仁王立ちして独り言を言う。

「約束の時間に遅れるなんて! 外車率が高い百貨店の駐車場を選んで正解ですわ」

デジカメ片手に物色! 

コツ……コツ……

駐車場のスロープから車の音ではなく、革靴の固い靴底がコンクリートを叩くような足音が聞こる。

「ごめん! おそくなってしまって……」

頬を染め息遣いを荒くした華奢な影が話してきた。

「はぁはぁ……一度帰ったら綾乃さんに捕まってしまって」

ドキン! 息遣い荒く可愛い格好をした子に又も胸の高鳴りを覚える。

ひなたは、ブラックベースにチャコールグレーの花柄が刺繍されたブーツカットのフレアパンツを履いて、上はチャコールグレーのタンクトップに、肌触りのよさそうなオフホワイトのキルト生地のタイトなパーカーを羽織り、純白の胸元にはシルバーのロザリオネックレス。

そして、頭にはホワイトのニットキャップを被って、目を瞑り拝むように謝っている。

「め……芽美の為にそこまで……可愛いなんて思ってあげませんからね!」

いつもの眼鏡姿ではなく裸眼で私服姿のひなたがスロープを走って上がって来たのだ。

 

えっ? 何っ 何っ?

芽美ちゃんが明後日の方を向き目を瞑り頬を染めている。

一呼吸おいてボクの方を向いて話を続けてくる。

「ひなたさん、以外と律儀ですのね」

「……?」

 何を言っているのですか? 芽美さん?

えっと…… 女の子してませんよ?

ボクは、改めて自分の格好をみると、パーカーが少し乱れ肩口から白い地肌が見えている。

だらしない所を見せてしまいました……。 何か恥ずかしいです。

芽美ちゃんの前では、だらしない所ばかりみられちゃってますね……

反省しながら、とりあえず服装の乱れを直して芽美ちゃんから言われた事を整理する。

 

くっ…… 可愛い!

 真っ赤になって服を整えいるひなたを見ていると素直に思う。

そして自分は見てはいけない光景を見ている気分になってきた。

そして耐えられずに、頬が熱くなり目を逸らす。

「律儀って……」

 不意に、先ほど芽美が口にした言葉が返ってくる。

「あの……ボク……今……じゃないですよ?」

……違うの?

 ひなたは拗ねたように不満を露にしている。

朝、言った「女の子として逢いなさい」を健気に実行しているものだと思っていたのだ。

 

「律儀って……」

 ボクは、朝の忘れることのできない衝撃の告白を鮮明に頭で再生していた。

 朝の「必ず、女の子として逢いなさい」と耳元で囁かれた事を。

 触れるか触れないくらいの距離で囁かれた言葉を。

 あつい吐息と共に耳朶を噛まれた歯の感覚。温かな湿った舌のいたぶりを……

 自分を震え糺し、言うべきことを言う。

「あのボク……今……じゃないですよ?」

 至近距離まで近付き芽美の肩を叩き釘を刺す。一応。勢いに任せて。

「えっ……わ……忘れなさい。さっき言った事……」

ぴくっとスプリングコート越しに肩が震えたのを確認した。透き通る細い声が僅かに届く。

よ……よし。この調子でイニシアチブを握るんだ。

ボクは心で拳を握って気合いを入れた。

 芽美ちゃんは、ほんのり化粧をした綺麗な顔立ちを向け、澄んだ瞳がボクを睨む。

「朝の続きを……」

「えっ?」

 芽美ちゃんから短く発せられた玲瓏な一言で、簡単に心の拳が消滅した……

強気で行くんだ! 脅迫には屈しない! 

一日かけて誓った思いが、頭から飛んで行く。

ボクは、朝の耳を齧られ舌で転がされた感覚を思い出し一瞬で撃沈。

「ご……誤解しないで下さる? あ……あの続きをしたいのではありませんワァ」

 語尾が上ずって綺麗な縦ロールごと自分の手に絡め取りながら、桜色に染めた頬を押さえて朝の行為ではない事を伝えてくる。

「…………」

 芽美ちゃんは思わず抱き締めてしまいそうな仕種のまま、ボクを伺っている。

「あ……あの……手を」

「あっ……ごめんなさい」

ボクは、慌てて肩に乗せたままの手をどけると芽美ちゃんはコートを整えている。

芽美ちゃんは、普段からは考えられないような真っ赤の顔のまま言う。

「ホントはね……呼び出したのはね……」

 弱々しく紡ぎ、一呼吸置いてから言う。

「あの……芽美……好きなの……大好きなの」

「ええっ」

 胸を突き抜ける衝撃がボクを襲う。

これはもしかして! 告白ですか?

「車が……フェラーリとかマセラティとか……あとアルファロメオも! ランチアも! ランボルギーニも! ……うん……綺麗なボディが大好きなの!」

 こちらを伺いながら続ける。

「ひなたさんの御両親が所有していた車に、時々でいいから乗せて欲しいの!」

「あ…………ああ」

 ボクは、盛り上がる緊張感が脱力感へ替わりペタンと座りこんでしまった。

ちょっとフリが告白っぽい感じだったのでびっくりしました。

 


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