« 夜を抱える人達の日向であって下さい。21 | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。23 »

夜を抱える人達の日向であって下さい。22

著/秋月十紅

ニットキャップから見せる蜂蜜色の髪がふわっと舞う。

以外と即答で返事が帰って来た。

「いいですよ。みんなが休みの時しか車出してもらえないけど。ボク免許ないから」

 ひなたは、ペタンと腰を抜かした様に座り込みながら満面の笑みを浮かべて話してくれた。

またキルトのパーカが少し乱ている。

子供っぽく見えたり、カジュアルっぽく見え過ぎるパーカ。ひなたが着るとスマートなプロポーションに良く似合って色っぽく見える。

風にのってブラックティベースの香りが芽美を刺激する。

ひなたの香りに朝のどきどきが思い出され頬が熱くなる。

朝の優越感や背徳感が呼び起こされる…………

「だ……大丈夫?」

 自分でも震えているのがわかる手を座り込んだままのひなたへ差し伸べた。

「す……すみません。……二回目ですね、手をかしてくれるの」

花が咲く様な極上の笑顔で恥ずかしそうに白い手を差し出してくる。

女の子じゃないのに……

女の子じゃないのに……

 可愛いですわ……

 

芽美ちゃんの柔らかくあたたかな手を掴み、耳まで真っ赤な顔を覗き込み「ありがとうございます。やさしいですね」とお礼を言う。

目線が少しだけ高い芽美ちゃんを見て。もう一度。

「いいですよ。ドライブ。それとボクも言いたいことがあるんです!」

「ありがとう。私も何であの女装を……」

今度こそイニシアチブを握らないと!

話を遮って優位に立つんだ! あの事を口止めさせなければ。

言葉を遮り真っ赤な顔のままの芽美ちゃんに告げる。

「何で芽美ちゃんはあそこでアルバイトしてたの? 学校に届けだしてないでしょう?」

少し芽美ちゃんを真似て勝ち気を気取って言葉にした。

「は……はぐらかさないで! 私の質問に先に答えて!」

芽美ちゃんは、綺麗な瞳をぐらぐら揺らす。

少しは狼狽えた様に見えた。

「可愛かったですよ。唯ちゃんとはしゃいでる姿とか」

 ボクは、顎を少し上に向けて、腰に手をやり思い出すように言う。

更にまくしたてるように責める。

「車の周り廻って、子供みたいに唯お姉様っ! 唯お姉様ってはしゃいじゃって……くくっ」

「いやっ! ……いわないで!」

少し目が潤んできた? 綺麗な双眼に雫が浮かんできそう。

芽美ちゃんは、慌ててボクの口を抑えようと手を伸ばしてきた。朝のような失態を繰り返さないように素早く芽美ちゃんの細い手首を掴む。

可哀想だけどもう少し言わないと……

怯んだ芽美ちゃんを追い詰めるように責める。

「芽美ちゃんの方が背が高くても、ボクを舐めてたらだめだよ?」

「ボク、オトコノコなんだよ?」 

「朝みたいに脅してもだめだよ?」 

「勝負は決まってるんだよ?」

 言葉を切って芽美ちゃんを下から見上げて一言一言力強く言う。

「イッちゃいな! スッキリするよ?」

芽美ちゃんの下瞼に大粒の涙が浮かんできた。

足元の車止に一段登り少し見下ろす感じにシメの言葉を放った。

「あの日の女装の事は言わないって! 約束してください!」

……キマッタ。

 芽美ちゃんの前髪が風が撫でていく。

 綺麗な瞳が涙で揺れている。微かに嗚咽に似た喉の悲鳴を聞こえた。

「…………ふぅぇっ」 

辺りは完全に暗くなって行き交う車もなく静まりかえっている。

弱々しい芽美ちゃんの桜色の頬に涙が溢れていく。涙を堪えるように歯を食いしばる。

そして、縦ロールが下を向く。

ボクの胸に芽美ちゃんのおでこが触れた。両手はボクが掴んだまま。

「ひ……ひどいですわ!」

 髪を揺らしおでこを擦り付けながら叫ぶ。

「お……女の子を脅すなんてひどいですわ!」

芽美ちゃんの掴んだままの手が震えている。

ボクは、その手を放してそっと芽美の頭を添えた…… 

「女装してたのはあなたなのに!」

「芽美……悪い事してないのに!」 

「正直に車が好きな事言ったのに!」

「友人に話せない車の話を沢山したいと思っただけなのに! ……うっわぅぅ!」

 恥も惜しまないで泣き叫ぶ芽美ちゃん。

……ああ……そうだったんですか。

だから朝、ああいう言い方だったんですね。

芽美ちゃん、見たまま素直じゃないんだ……

芽美ちゃんの細い手がボクの胸を打つ。

少し……や……やりすげてしまいました。

胸が痛いです。

「言い過ぎました。ごめんなさい」

 芽美ちゃんの頭を撫でながら、素直に謝る。

「許しませんわ! ひなたさんの事、可愛いって思ってたのに! 覚えてなさい!」

「……ごめんなさい」

芽美ちゃんは、ボクの胸を打つ手を止める気配がない。

「許しあげませんわ!」 

……芽美ちゃんが叫んだ瞬間、胸を叩く力が強められた。

華奢な胸だけど気が澄むまで打っていいよ……

そんな事を思った刹那、足元が不安定になって空を蹴る。

車止めに乗ってたんだった!

 


WEB拍手です。また、クリックしてくださるだけでも嬉しいです!

  

|

« 夜を抱える人達の日向であって下さい。21 | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。23 »

小説「七夜ひなたの……」」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 夜を抱える人達の日向であって下さい。22:

« 夜を抱える人達の日向であって下さい。21 | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。23 »