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夜を抱える日向であってください。24

著/秋月十紅

白い夢に誘われる微睡みから救うように、耳元で手を叩く乾いた音がした。

「もう見てられません。ストップよ二人とも……ふふっ」

 綾乃お姉さんが近くで膝を抱え見ている。

「あっ綾乃さん。いつのまに……」

 芽美ちゃんに下敷きにされたまま、頬に手をあてた綾乃さんを伺う。

「送って来たの私でしょ? 頭打って忘れたの?」

 声が冷たいような……

「す……すみません。」

「すぐ戻るからって言ってから随分経っても帰ってこないから心配してきてみれば……」

「綾乃お姉様……いつから……」

 芽美ちゃんは、やっと状況を把握したらしく声を震わして伺っている。

「芽美ちゃんもおかしいと思わなかった? スロープから普通人が上がって来る?」

暫く黙り「あ」と小さく漏らしスロープを見ている。

ボクもつられて見ると。

すると、車が登ってくるエンジン音が聴こえる。

このエンジン音って……

 

ギュイィィィィーーーン!

 聞き覚えのある独特のエンジン音がスロープから飛び上がってくる。

場違いなターボの吸気音を響かせ往年のWRCさながらなドリフトをきめている。

そんなランチア・デルタ・インテグラーレを見ながら膝を抱え綾乃さんは楽しげに囁く。 

「いつまで抱き合ってるの? いいの? ひなたちゃん、えりこが来たわよ。ふふっ」

恋人同士ではないけど、なんか見られては非常に危うい。

そんな危機が迫っている。

「ちょっと……芽美ちゃん! 離れて!」

「ちょっ……きゃ」

慌てて動こうとして、芽美ちゃんがバランスを崩しとっさにボクの首にしがみつく。

「間に合わないね……ふふっ」

 冷たく笑い……近づく音の方を見た。

 ブレーキの鳴く音が聞こえる。

 [GAMMARE](ジャンマーレ)トップスタイリストが商売道具片手に飛び出てくる。

「ひなた!」

「…………」

 こ……怖い。

鏡があったら見せたい……かも。

ボクに股がって耳の後ろに顔を埋めた芽美ちゃんとボクの顔比べるように見てから、えりこお姉さんは絶叫した。

「な……何やってるのォォォォォ!」

 ボクの鼓膜を目一杯刺激する。

言い終わるのと同時に髪を振り回し綾乃さんを見る。  

「綾乃もいるのに!」

 綾乃さんは鋏を取り上げてから、芽美ちゃんの方を見て答える。

「脅して押し倒したんだよね~〜芽美ちゃん♡」

「綾乃お姉様!」

 突き放された芽美ちゃんは、失意の叫びをあげてボクの胸の中へ小さくなる。

「芽美ちゃん! ひなたまで手を出さないで!」

「まで? ……ふふっ」

 綾乃さんは満足したように笑ってから踵を返しスロープに向かっていく。

「えりこお姉さま誤解です。……まっ待ってください! 綾乃お姉さま!」

 綾乃さんを追うように芽美ちゃんがこけそうになりながら追っている。

 弁解の為に走って行ったのかな? ……頑張ってください。

「あ……あの……手を出されてませんよ?」

「じゃあ……何よ! 抱き合っちゃってさ!」

 えりこお姉さんはキッと睨み付けて、起きるのに手を貸してくれる。

「その……女装してたのバラすって言われて……言わないでって言ったときに……そこの車止めからこけちゃった……あははは」

「困ったら連絡するからって言ったのに……」

 えりこお姉さんの手に力がこもる。

「あの……心配かけてすみませんでした」

素直に謝る。

手を握る力が緩み、服の埃を払ってくれている。

「そう判った。……あの、S属性縦ロール娘が……」 

小さく口から漏れた。

若干埃の払う力が強まった。

……S属性縦ロール娘か、たしかにそんな感じがするような……

ちょっと痛い……えりこお姉さん叩く力がつよいってば!

「乗って! 晩御飯食べに行くから」

「あの……その……足くじいちゃったみたいで……動けません……」

少し甘えた声でえりこお姉さんの服を摘んで、くいくい引く。

ほんの少しジンジンするだけなんですけど。

えりこお姉さんは文句の一つも言わずに甘えさせてくれた。

ボクは、ふんわりいい香りがするやわらかい体に支えられながらインテグラーレのバケットシートに腰を下ろした。

「あはははは……お手数かけます」

 ……あたたかい。

 春っていっても夜は冷える。

 じんわり背中も体温を取り戻す。

 バァァァァン……・

 盛大にインテグラーレの冷却ファンが駐車場に鳴り響いた。

 

……あたたかい。

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