« お見舞い申し上げます | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。26 »

夜を抱える人達の日向であって下さい。25

著/秋月十紅

 Comitiva ~Fedelissimo~ 桃井えりこ (一) 

 

 

 芽美ちゃんの『秘密の告白』は結局綾乃さんに聞かれていてみんなで共有することになった。

『十分叱っておいたから、なるべくお化粧して逢ってあげてね! ふふっ』

追いかけて行った芽美ちゃんを綾乃さんが叱ったみたい。ボクも例外なくきちんとえりこお姉さんに叱られたんだけど……お化粧しなくちゃ駄目なんですか?

 電話を切り、仲間入り記念として芽美ちゃんともご飯行くことになった。

 

「ほんとにマセた縦ロール娘だねー」

「……ボクも化粧して逢って欲しいと言われたのはじめてで……」

えりこお姉さんは、芽美ちゃんにくしゃくしゃにされた髪を丁寧に整えてくれている。

手櫛で、やさしく撫でながら。

ボクは、えりこお姉さんの優しい口元から首元を眺め居心地の良さを感じていた。

綾乃さんといい、えりこお姉さんといい、やっぱり末っ子の危機には人様の子供でも叱ってくれるんですね。

多分、あたりまえの事なんだろうけど、うれしかったりします。  

「…………はい、できあがり♡」

えりこお姉さんは、ボクと頬を密着させてルームミラーで顔を写し見せてくれている。

なんで頬ぴったんなんですか?

 なんだかくすぐったくて、耐えられなくなり外を見ると……

 綾乃さんの方から食事に誘われているはずの芽美ちゃんが顔を真っ赤にして帰って来た。

「あの……言いにくいのですが……」

 もじもじと指をくるくる回してして話してきた。

 親指同士くるくる。人差し指同士くるくる。と順番に。

あれは、先日新聞で紹介されていた脳の体操だったような……

指の動かし方が起用でそっちを聞きたかったけど、ボクはまじめに聞いた。

「どうしたの? 綾乃さんに乗せてもらえなかったの?」

少し心配気味に聞くと「ち……違いますわ」と答えてから屈んで運転席側のえりこお姉さんを見て言いにくそうに口を開く。

「ラ……ランチャに……乗せて下さい」

「…………」

「…………」

どんな反省よりも、車の魅力に負けちゃうんだね。芽美ちゃん。

今日、綾乃さん会社のバンだから……

アルファロメオRZは車高が低いから立体駐車場に乗ってこれないし……

 

ブォォォォォ…… シュー…… 

えりこお姉さんは、高圧の空気が抜ける甲高い音を響かせ小気味良くシフトを決めていく。

芽美ちゃんは、着ていた可愛いらしいスプリングコートを綺麗に折り畳んでから膝の上へ置いている。脱ぐ時に乱れた髪を整えて落ち着かないようにきょろきょろしている。

 少し頭を打つ感じになりながら後部座席に芽美ちゃんが納まっているのが可愛らしいです。

 ちょこんと……「独特な革の香り。……とガソリンの臭い?」「あっ後ろだけ手動のウインドー? 面白いですわ」と小声で呟いている。

初めてインテグラーレに乗る人は、独特な肌触りのアルカンタラと意外とエンジンの音を通す車内。特に後ろの席にはじめて乗る芽美ちゃんはもっと驚いてると思うけど。

普通に座っているのに頭が擦れるくらいに天井が低い事とか……

そんな事を思っていると顔が綻ぶ。

「バカッ! 何ニコニコしてるの! ……心配してたのに……反省しなさい!」

「ご……ごめんなさい。所謂……事故でして……あははは」 

 怒っているわけでは無さそうなので綻んだ状態で返す。

「S属性縦ロール娘も反省しなさい!」

 ミラー越しにちらちら芽美ちゃんを威嚇するように見ている。その度にえりこお姉さんのキラキラしたピアスが目にはいり、心配されているうちが華なんだと気付く。

 本当に悪い事しちゃったな~。後でちゃんと謝ろう。

「えりこお姉様に謝ることはありませんわ!」

「な……なんですって! S属性縦ロール娘!」

「あ……あの……」

「変な称号は頂きませんわ! S属性縦ロール娘なんて親にも言われた事ありませんわ!」

……普通はそうでしょう芽美さん……面白いよ。その返し。

「ひなたに何したのよ! S属性縦ロール娘!」

「……ひなちゃんの初めてを♡」

 運転しているえりこお姉さんの耳に近付け、目を細め勝ち誇ったように言っている。

 ……芽美ちゃんってば、なんでそんなに勝ち誇れるのかわかりませんよ?

キィィィィ! 急ブレーキと共に前に体重が高速移動した瞬間シートベルトが固まった。

「えりこお姉様! いきなり止まらないでくださる?」

 サイドブレーキの手前まで体制を崩した芽美ちゃんが抗議をあげる。

「わ……私は……私はこの……この柔らかな胸で包んで寝た事あるのよ!」

 えりこお姉さんは、ぽよんとした形の良い胸を指差しながら高らかに宣言した。

「ひなちゃん、言葉責めに弱いですわ!」

 間の手で、言い合い睨み合う二人。

 くっ…… 泣きたくなってきました。

「へ〜ひなちゃん、言葉責めに弱いの〜へ〜」

 ……訳はさっき叱られた時言いましたよね? えりこお姉さん!

 言葉責めなんて言葉……恥ずかじゃないですか〜。

「へ……変な事言わないでください! ……えりこお姉さんも同レベルで争わないでってば!」

「へぇ〜ひなちゃん……寝た事否定しないんだ〜」

 半眼で顔を赤らめた芽美ちゃんが目敏く突っ込んでくる。

「寝て……寝てません!」

 ひぇ〜何を争ってるんですか!

「芽美ちゃんみたいなツルペタには無理でしょうけど! 確かに寝たわっ! ふわふわで気持ちよかったってS属性縦ロール娘に言ってあげなさい!」

「め……芽美の舌使いと髪の毛の愛撫の方が気持ちよかったでしょ?」

こ……この二人は、精神年齢同じですか!

特に、えりこお姉さんそんなにむきにならなくても——

「や……やめてください! 二人とも!」

近付く二人の顔を押し退け叫ぶ。

そして芽美ちゃんの頬を両手で押さえながら言う。 

「喧嘩しにこの車に乗って来たのですか? 芽美ちゃん!」

睨むような目を作って芽美ちゃんを叱る。

「そーよ」と続くえりこお姉さん。

「ち……違いますわ……えりこお姉様が格好良く運転するランチャに乗りたくて……」

目を逸らし、恥ずかしそうにちらっとえりこお姉さんを伺っている。

視線を送られたえりこお姉さんは「ふんっ」と鼻を鳴らし、前を向き車を発進させた。 

 軽快にアクセルを呷り、小気味良くシフトしだした。

「ひなたと休みが合ったらお出かけするんだけど……芽美ちゃんも来る?」

 さっきまで言い合ってたのに、素直な言葉には弱いんだから……えりこお姉さん。

……かわいいです。

ボクは、そんなえりこお姉さんの真っ赤にした横顔を見て和む。

「もちろんですわ!」

芽美ちゃんも、何言い出すか判らないけど悪い人じゃなさそう。

「あの……ひなちゃん。芽美の顔を押さえ付けたまま、えりこお姉様見て赤くならないでくださる?」

「あ……ひなちゃんって呼ばないでください。恥ずかしいです」

 放すと同時に話を逸らす。

「唯お姉様は、そう呼んでましたわ。」

 芽美ちゃんは頬を摩りながら不満げに呟き、インテグラーレのエンジン音を楽しむように目を閉じた。



WEB拍手です。また、クリックしてくださるだけでも嬉しいです!

  

|

« お見舞い申し上げます | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。26 »

小説「七夜ひなたの……」」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 夜を抱える人達の日向であって下さい。25:

« お見舞い申し上げます | トップページ | 夜を抱える人達の日向であって下さい。26 »