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夜を抱える人達の日向であって下さい。28

著/秋月十紅

 ホワイトベースに小さい花が刺繍されたテーブルクロスに、光沢のあるベージュのジャガード織のテーブルライナーがさり気ない豪華さを演出しているダイニングテーブル。

既に六人掛けのテーブルには、ひなたがニット帽を脱ぎ細い指で毛先を弄び花を振りまく様な仕種でメニューに目を通している。

若干照明がおとされ店内にテーブルのセンターには蝋燭が灯され一層ひなたの妖艶な美しさに拍車がかかっている。

それにあてられた女性陣が脇を固める。

 えりこと綾乃が。

「私はデレデレしたえりこのお姉さん顔を見よ」

「お……おじゃまします」

横に芽美ちゃんが申し訳なさそうに座る。

「お決まりになりましたか? オーナー」

「いつものコースでいいよね?」と仕切るえりこに「おまかせ」の視線を送る。

「芽美ちゃんここ初めてだから、渡蟹のスープもつけてくださいお願いします」

ひなたは、メニューブックで顔半分隠し芽美を伺っている。

「ひなたさんにお任せいたしますわ」

 芽美は不思議そうに伝える。

ひなたは、相変わらず頬を染めてニコニコだし、えりこに関しては完全に堕ちてる?

綾乃は、マカロンの写真見せ誘惑しようとしてるし……

「……いい?」

 ひなたが少し首を傾げて、渡蟹のスープの事をえりこに伺っている。

一部始終というか行動一つ一つにハマってるえりこは、こくんこくんと頷きだけ返すしか出来ないみたい……

芽美だけ私の視線に気付き笑顔を返してくる。

「芽美ちゃんも遠慮しないでいいのよ?」

「はいっ。唯お姉様……」

将来絶対に上品な子に育つ。百%保証が付いている端整な顔立ちの子に馬乗りにされて言葉責めにあったら私なら五秒で相手を逆に脱がしてしまう自信がある。

ひなたって以外と芯の強い子に育ってるんだと芽美を見て思う。

 

 渡蟹のスープが運ばれてくる。

ウエイターが下がり、蝋燭の光が揺らぐ。

芽美の髪もまた、揺らぐ。

 ひなたは、専属のスタイリストがいるから髪の手入れが行き届くのはわかるけど、芽美の綺麗な縦ロールも又、よく手入れされた艶やかで柔らかそうな髪をしている。

 ついつい触ってしまう。

芽美は恥ずかしそうに、下を向いてなすがまま。されるがまま。

「あの……唯お姉様」

「……でそのゼロハリの中には何が入ってるのよ?」

 剥れた声は、えりこ。

「隠し撮りコレクション」

「「「は?」」」

「はれほ?」

整った小さな唇に、スプーンをくわえながら恐らく「誰の?」と言うひなた。

 主に、旅行の時に拗ねたひなたがロッジのウッドガーデンで眠った時に撮影した写真。

ひなたをモデルにした幼女写真集。ひなたの着せ替え人形写真。

えりこがひなたをお姫さまだっこしてベッドに運ぶ写真。添い寝してる際どいお色気写真。

もちろん景色、みんなの写真もあるけど。

それと、車の写真は芽美ちゃんへのプレゼント。

「見る?」

「先に見ていいですか?」

意外にも横の芽美ちゃんから。

ジッと見上げてくる。二の腕あたりに手を添えて。

スープを一気に飲み干した私と芽美だけが見る事になった。

「あっ……」

 頬を染め、興奮した喘ぎをあげる。

「いいでしょ……このアングル妖しいでしょ」

「芽美も欲しいですわ……この写真……美しいラインが出てますわー」

「ちょっと唯! 何こそこそしてるの!」

「えっ……ちょっと……」

 わざと動揺したフリをして、えりこで遊ぶ。

「妖しいけど、怪しい写真ではありません……わ」

 芽美は、蝋燭の揺れにあわせて瞳を揺らしている。 

「芽美ちゃん顔が真っ赤よ……ふふっ」

「ほ……ホントに怪しくはありませんわ!」

「車でしょ? マセラティ・ギブリの……」

半眼になり、ひなたがあてる。

面白く無いなぁー。

「じゃあこれなんかどうかしら? 驚かないでね」

付箋を付けたページを開く。

「あっ!」

芽美は、みるみる耳まで朱に染めあげ……つかまれたままの私の二の腕も一緒に震える。

これは効くよね〜。

「これはもしかして……ですの?」

「そ……」

ロングのウィッグをツインテールに纏め、唯が着ていたスーツスタイル。

袖が長く白い手が半分くらい隠れ……カジノの美人ディーラーがスカートを摘み恥ずかしそうに上目遣いしている悩殺写真。

「こ……これも芽美……ほ……欲しいですわ」

震えた手がとまり私の二の腕を両手で爪をたてるように求めてくる。

以外と壺にハマった?

「唯! 食事中だからしまいなさい!」

 キッと睨んで、もっともな事を言うえりこ。

「はいはい……だって芽美ちゃん」

「……ごめんなさいえりこお姉様」

芽美は、しゅんとなって謝っている。

ゼロハリに写真を仕舞う時に、渡す予定の封筒が見えた。

「あっひなちゃん! これあげる」

忘れないウチにを渡さないと……

細く長い指が差し出さる。

ひなたは、屈んで髪がさらさらと束になって流れてきて髪を耳にかける仕種を見せる。

耳にかけると、日にさらされる事の少ないひなたの小さな白い右耳が露になった。

妖艶に蝋燭の炎を照り返す頬へ、さらさらと髪が数本流れるのがスローで見えた。

少し目を閉じ、潤んだ瞳が見える。届きそうで届かない。そんな微妙なところで手が震える。「……が……かんばれ」と囁く誰かの声が小さく聴こえる。

 お互い背が低いから届かない。だらしない緩みきった顔で見ているえりこも綾乃……

「あっ!」

えりこがプレゼントしたロザリオが音をたてて重力へ従う。

……瞬間。

正面を見るとロザリオを押さえた手越しに……服の隙間から覗く白く透き通る肌が覗いた。

華奢で綺麗な身体。何人も女性を抱いてきた自分が思う。

……オンナノコでないはずがない。

えりこと綾乃は、ひなたの仕種を堪能し、芽美は私と同じ確信めいた何かを感じ取ったように口をぱくぱくしている。

 ……カタン テーブルの裏で誰かが足をぶつけた音がした。

「あっ……ピザきましたわ」

 芽美の少し動揺した声と私の二の腕を弱く引く。 

 えりこと綾乃は、ひなたを『姫扱い』して食事が進む。

チェロの単独の演奏が終わり、バイオリン奏者が挨拶をはじめた。

若い女性の声と淑女の声。

 そして優雅な調べが紡がれる。

 

  *


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