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夜を抱える人達の日向であって下さい。31

著/秋月十紅


ポーン『一階です』

 階数ボタンの下にある蓋にいつもの様にカギを挿し蓋を開け『七夜ひなたのお家』とイラストが添えられた表示板が見え五階のボタンを押す。

「あの子に、キスしちゃったのばれちゃいましたね」

 不意に出た。なんだか事故でも大人になった気分がしてそわそわしてしまいます。 

 ワイヤーの音とモーターの音が流れるのと同時に俯き加減にえりこお姉さんが話し出した。

「ワっ私も初め……ところで唯から何か封筒もらってたよね? 何なの?」

あからさまに裏返った声。あからさまに急展開な話。

朝のボクみたい、あはは。

疎いボクでもわかりましたよ? 今ので。言い換えてもダメです。

「多分、みんなで写ってる旅行の写真だと思います」

「ふーん」

えりこお姉さんは、それはそうだろうっていう罰の悪そうな顔をしている。

無理に、はぐらかすから変な事言っちゃうんですよ?

「えりこお姉さん……少し屈んで頂けますか?」

「なに?」

 さらさらとえりこお姉さんの髪の流れる音を聞くようにつま先立ちをしてキラリと光る耳朶を見てからボクは、細く綺麗な腕を優しく掴んだ。

ぴくっと震える肩を見たけど、這い上がるようにくちびるを寄せる。

二人しかいないエレベータ内だけどコソコソ声で言う。 

「えりこお姉さんも、初めてだったんですね。うれしいです♡ ぺろっ♪」

「キャッ…… こら!」

さっき志し半ばで出来なかった事をした。

齧るのはやめて、耳の後ろを虐めちゃいました♪

「事故だったんでしょ? それなら正直に言えば良いのにー」

「そうだね、正直に言うね。可愛い子が目を瞑って腕を引かれたから……その……奪っちゃった♡」

ボクの一番好きな笑顔。目を細め広い二重と下瞼をぷっくりさせて。

悪戯っぽい口調で真実を言う。

 ボクは、急激に上がる体温と共に膝がガクガクと震えだした。

今日は本当にいろいろありました。

明日の朝ご飯にマカロンもつけてもらいましょうか? えりこお姉さん。

「……罰として、おんぶしろっ♪ です」

足に力が入らなくなって、えりこお姉さんに寄り掛かると同時にアナウンスが流れる。

ポーン『五階です』

甘えっぱなしで、ごめんなさい。

 

 ふんわりやわらかな甘い香りに酔いながら、不覚にもエレベータから出て自宅に着く前に寝てしまい朝起きたらパーカーだけ脱がされ、タンクトップとフレアパンツだけでベッドに収まっていた。

「罰として完食しろっ♪ です」というメモと一緒に、リビングでビールを並べたえりこお姉さんが寝ていた。綺麗とは言いがたいけど、歪な形のマカロンがビーダマイヤー様式の装飾が施されたアンティークなボールに山盛りに置かれていた。

 本当にボクの心がわかるみたいで不思議です。えりこお姉さん。

 朝日に照らされたマカロンは、かーさまのおにぎりに見えてでおかしくて泣けました。

「なんか感動しました。ボクは、もしかすると――……」

 何か思いついて口に出そうとしたけど…… なんだっけ?

寝起きでボーっとしてて頭が回ってないみたい。

とりあえず『太らせたいのですか?』と付箋に書き、寝ているえりこお姉さんのおでこに貼りつけて、コーヒーをセットしてからシャワーを浴びる事にした。

 


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