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夜を抱える人達の日向であって下さい。32

著/秋月十紅

 Comitiva #2 ~Fedelissimo~ 綴木綾乃 

 

 

上空に冬の寒気が残る日、初夏であり晩春である季節。

湖が近くにある公園に、菖蒲と瑞樹と私三人で遊びに来ている。

——……綾乃!

「あぁ……ひなた?」

目を開けると、白い外花被片は大きく下垂し内花被片は直立しているシロアヤメが咲いている。

千変萬化の様にシロアヤメが揺らぐ。そして青あらしが通り過ぎた。

ぼんやりとした目に、五月晴れの名残りが襲う。でも木陰にいる私は寒い。

「何寝ぼけてるの? 菖蒲ですよ?」

蜂蜜色をした綺麗な髪を揺らせながら、頬を膨らませて小さい拳で胸を叩く。

あぁ——…… 寝てたのか。

「寒い…… そろそろ、帰ろうか?」

やっぱり夕方には肌寒い。二人とも風邪引きやすいから帰らないと。

「こういう天気の事を、若葉寒って言うんだよ」

少し違うよ? 瑞樹。

瑞樹も小説片手に、菖蒲と同じ蜂蜜色の髪で、菖蒲とまったく同じ顔で私を見ている。

私と菖蒲は特別な仲だった。それを知ってか知らずか今の様に仲むつまじい姿を見せていると瑞樹はいつも同じ事を口にする。

「アヤメとミズキは目もあやに咲く百合に憧れるんですよ」

本を沢山読むミズキは詩の一文のような事を。

そして、本を閉じ先程菖蒲が見せた全く同じ、蜂蜜色をした綺麗な髪を風に揺らせながら、頬を膨らませている。

彼女なりの皮肉なの?

「瑞樹ってば、絶対に遥さんと結婚して婿に来てもらってうんだって! 子供ができたら、『ひなた』って名前つけるんだってさっきから言ってるんだよ」

 菖蒲は、私の胸の中…… 子宮あたりに顔を埋めて言う。

「遥さんかぁー綺麗な男性だよね……頑張れよ!」

「…………うん。ありがと」

瑞樹が遠い目をして決意している。

いきなり立上がり、夕日に両手を広げる。

綺麗に伸ばされた蜂蜜色をキラキラ風に弄ばれながら、振り向く。

枝を扇状に広げ、袖から見える真っ白い生肌はミズキの華の樹形の如く浮かぶ。

キレイ——……

時間が止まる、無音の集中に瑞樹がいる。

そんな瞬間。 

「わたし、明日からイタリアへ子供を授かりに行くの……………………」

 よそ見をした私に気付い様に菖蒲は、鈴が転がるような声で私の胸の中で言う。 

微睡みで見た、千変萬化に揺れるシロアヤメ。

私達の別れを告げるかのように――……

 

『七夜ひなた』 本ばかり読んでいた瑞樹が付けた名前。

彼女達なりの思いが詰まってる名前。

私から巣立って行く花たちの為に。

私の前から――……

 

   *

 

「寒い…… そろそろ、帰ろうか? ――……」

 

アウロラーレは古典様式で建てられた正面両脇にトスカナ式柱頭がある。

重厚なファサードに縦長で格子にサッシが通っている縦滑り出し窓が似合っている。

その滑り出し窓を開け放ちカーテンを大の字に見える。顔だけ振り向いて、頭から(?)と見えそう顔をしてこちらを伺いながら、

「何寝ぼけてるの? ひなたですよ?」

 夢と現実の狭間に立っている様で頭が覚醒しない。

「綾乃さん? 居眠りしてないで綺麗な空みてください!」

 昼の五月晴れの名残が差込んでいる。

「あ…… ごめんなさい寝ぼけてたわ。ふふっ」

そしてひなたは、チュールレースのカーテンを手放した。

チュールが舞う間から綺麗に伸ばされた蜂蜜色をキラキラ風に弄ばれながら、振り向く。

 枝を扇状に広げ、袖から見える真っ白い生肌はミズキの華の樹形の如く浮かぶ。

「…………瑞樹?」

ホントに、どんどんあの双児の容姿に重なっていく。

先日口にした唯の言葉を思い出しながら。

「何、ごにょごにょ言ってるんですか? 今日は綾乃さんの所でアルバイトの日ですよ」

 言い終わると頬を膨らませ軽く睨む。

「疲れてたのかな? ふふっ」

「社員さんみんな接客準備に励んでるのに、社長は居眠りですか?」 

目を細め悪戯っぽく笑い軽口を叩く。

何だか、表情がえりこに似て来た? 

「笑い方。えりこお姉さんに似て来たね? ふふっ」

「かっ……からかわないで下さい」

とぼとぼと赤い顔を隠すように下を向き手をグーにして大振りに歩きながら剥れている。

そして、社長机の上の花瓶に向かって行く。ミズキの枝とシロアヤメの花が挿された。

「水を替えてきますね! あの……かーさま達を思い出してくれたんですか? ありがとうございます」

 菖蒲と瑞樹の生き写しの笑顔と共に、花瓶を抱え退室して行く。

 華奢な肩口に、流れるような髪に可愛い服……

…………?

なんでアンダードレスを着ているの?

ピンタックとフリルが施された可愛いドレス。

腰がキュッと搾られた上半身に、スカートの裾まで三段大きなフリルが広がっている。

「…………またうちの従業員に着せ替え人形させられているの? ふふっ」

――……しかし、懐かしい夢を見た。

あの後、遥さんと瑞樹はすぐに結婚。

そして、デザイン事務所をこの街で開業。

ゼネコン、マネキン屋、有名百貨店の装飾・ディスプレイ等の分野で才能を開花する。元々遥さんの家は資産家で各方面、顔が広かったのも幸いして業界でも知られたデザイン事務所へ成長し自社ビルを持つくらいに大きくなった。

 

菖蒲見てる?

瑞樹見てる?

瑞樹を射止めた遥さんも――……

 

あの時に似ている、夕焼け空を眺めながら………………

私も負けないくらい頑張ったわ。ふふっ。



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