小説「七夜ひなたの……」

夜を抱える人達の日向であって下さい。1

夜を抱える人達の日向であって下さい。

著/秋月十紅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音がない、動かない。

精妙な家具に囲まれた空間。

 

 肩まで伸びた蜂蜜色に輝く髪が、さらさら揺れる。

普段白く澄んだ身体は、今は少し桜色……

汗ばむ華奢な身体。

 

ボクの影だけが—————

 

ベッド脇の鏡が、跪き涙を浮かべたボクを曝け出す。

「……今日も一人じゃないんですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   Ficata 七夜ひなた 

 

 

都会ではないが、歴史深い京都市の街の中にアウロラーレはある。

アウロラーレとは古典様式で建てられた正面両脇にトスカナ式柱頭があり重厚な雰囲気が漂うテナントビルの名称。

ボクは、可愛らしい装飾がされた教会みたいなビルと思っている。

 

今日も賑わいを見せる一階のテナントの美容院を横目で見つつエレベータホールへ向かう。

床は大理石のタイルが敷き詰められファサードのトスカナ式柱頭の重厚感を引き継ぐ。

「ふぅー眼鏡も疲れますね」

エレベータの前で独り言を響かせながら両手で眼鏡を直す。

すると突然後ろから肩口に手を差し込まれ衝撃のあまりに声をあげてしまった。

「きっ……」

 きゃっ! って言いかけてしまったじゃないですかー。……半分言っちゃったけど。

甘い香りのするふわふわであたたかい体温が背中から伝わってきた。

見なくても分かるこの香水の犯人に向かって抗議の声を上げる。

「だっ……抱きつかないでよ! えりこお姉さん!」

は……恥ずかしい声だしてしまったじゃないですかー。

「おかえりっ! ひなたちゃん! 今日も仕種が可愛いね〜」

頭一つ上くらいから優しい声が耳に届く。

やわらかな声とふわふわの甘い香りのえりこお姉さんが、ボクの肩口から細く綺麗な手を差し込み抱きつく様に胸の前で腕組みしている。されるがまま顔だけ傾ける。

ちょうど照明の悪戯でいつもの整った顔立ちのお姉さん顔は、はっきりと見えないけど、ぼんやりと見える顔は桜色に染まり口元を優しく緩めてボクを見下ろしている。

えりこお姉さんを眼鏡の隙間から上目遣いで睨んでから剥れた声を出す。

「きゅ……急に抱きつかないでよ! 心臓がどきどきするじゃないですかぁ〜」

「急じゃなかったらいいんだ? 今晩寄ってくからね!」

即答で揚げ足を取り、あたたかい体温が離れていくと同時に今晩の約束を一方的に決めて行く。そして甘い香りだけ残して美容室[GANMMARE]ジャンマーレへ戻って行った。

日頃からスキンシップは大切なのって言う事を有言実行してますね……

さすがに店のモデルもしているだけあって後ろ姿も綺麗。

腰まで延びた美しい髪がお店のスポットライトに照らされて優雅に揺れている。

「もうっ!」

……自分勝手なんだからぁ〜

夕方からの予約客で賑わう店内へ向かって文句を言う。

 

ポーン『一階です』

エレベータが開くとアンティークな額に収められた案内板が目に入る。

一階は、美容室[GANMMARE]ジャンマーレ。ニ階「貸衣裳[VESTIRE]ヴェスティーレ」三階は「近日オープン! リラクゼーションサロン」四階は、七夜デザイン事務所と書かれてある。

三階に新しく「リラクゼーションサロン」が入ったので、四階の七夜デザイン事務所の唯ちゃんに昨日頼んで作ってもらいました。

流石に凝ってますね……あはは。

その新しい案内板に背を向けエレベータを閉じ、階数ボタンの下にある蓋を開けると『七夜ひなたのお家』と書かれ、ボクに似たイラストが添えられていた。そして階数ボタンを押す。

「唯ちゃんてば……」

唯ちゃんは、とーさまが経営していたデザイン事務所で働いている。

ボクと同じ高校に通学している頃からアルバイトとして仕事を手伝ってくれていた。

身長はボクと変わらない百五十センチくらい。ショート気味のパーマスタイルで「私、仕事できます」オーラが出ている大人な雰囲気なのに砕けて笑う彼女の顔が目に浮かぶ。

あの人、ボクが小学生の頃から知っているから二十半ばから三十あたりかなぁ……

唯ちゃんと歳が離れているのに仲が良かったのがジャンマーレで働く抱きついてきたスタイリストのえりこお姉さん。

そのおかげでボクとも仲良しになれたんだけど、どこで知り合ったのかなぁ?

ポーン『五階です』

それにしてもここの人達は、とてもあたたかくて家族を失ったボクに親子姉弟みたいなに接してくれている。

そしてアウロラーレは、ボクの家。両親の残した形見。

四階のデザイン事務所を経営していた両親の遺産として経営権とビルの所有権を相続して、このビルの五階を自宅として使っている。

でも、ボクは十七歳なので親戚の叔父さまに経営を委託して生活費は家賃収入(叔父様管理)自由のお金は、ここのテナントでアルバイトして稼いでいます。

 

「ただいま帰りましたぁー……」 

 いつも挨拶をしてから入る事にしている。

自室へ向かいながらリビングで、えりこお姉さんに手入れしてもらってる肩まで伸びた蜂蜜色の髪に引っ掛からない様に丁寧に眼鏡を外す。

多少見えにくいけど裸眼でも大丈夫。

自室へ入り着替えているとベッド脇の鏡にボクが映る。

かーさまに似た蜂蜜色のさらさらした髪の毛に華奢な幼児体型の体。

「かーさま、もう少しオトコノコらしく産んでくれれば良かったのにー……」

 鏡に映るボクが拗ねたように言う。その姿があまりにも少女然としている事に気付きあわてて目を逸らし業とらしく「ふんっ」と鼻で笑って誤魔化した。

 オンナノコに見間違われないように眼鏡をかけているけど、心の奥ではこの華奢な体もオトコノコにも間違われて告白される容姿でも、このボクを産んでくれた親には感謝している。

 特に、親を失ってからは……

 どんどんかーさまの若い頃に似ていくボクが両親の愛の結晶である事を証明してくれているから。

そんな事を思いながら、えりこお姉さんが来るのでリビングから掃除機を掛ける事にした。

 えりこお姉さんが来てくれるって事は、晩ご飯作ってくれるのかなぁー楽しみ! 

*

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夜を抱える人達の日向であって下さい。2

著/秋月十紅


  *

 

玄関を開けた瞬間に手が迫ってきた!

「おかえり! ひなたっ眼鏡とっても可愛いねー」 

瞬間、熱い抱擁と共に頭を撫で回された。

「お・い・か・え・す・よ?」

……子ども扱いして!

そんな扱いされなかったら素直に甘えられるのに。

「お腹減って機嫌悪くしないでよー」

ビールとピザと大きな紙袋を持ってリビングへ行き紙袋を置いてキッチンへ向かう。

部屋にえりこお姉さんの甘い香りが拡がっていく。

えりこお姉さんは、ボクが両親を亡くしてから、ときどき様子を見に来てくれるやさしいお姉さん。

今日はワンピースを着ていて、シンプルなブラック系の生地にアッシュブラウンのフリルが襟元と胸元に、それとスカート部に三段付いている。えりこお姉さんらしい甘くて素敵な服。

その上に花柄のエプロンを着て手際よく食事の用意をする。

「後で頼みたい事があるからピザ焼けるまで座ってていいよ」

 キッチンからやさしい声が届く。

タダでやさしい気持ちと食事にありつける訳ではなく食事が終わると「練習」が待っている。

カットの練習に付き合うとバイト代としてご飯をご馳走してもらえる約束事がある。

そしていつもの様にボクは学校の事を。えりこお姉さんは、二階のテナントの綾乃さんの事、今日カットしたお客さんの事を身ぶり手ぶりで話してくれて楽しく食事が進んでいった。

 

家で滅多にできない楽しい食事の代償として、えりこお姉さんに時間を預ける。

えりこお姉さんは星を浮かべた様な潤んだ目に、子供が悪巧みをする様な嬉しさを隠しきれない笑みを浮かべている。

そんな小悪魔お姉さんを横目に見ながらお気に入りのアームチェアーに座って待つ。

 ほんのり桜色の頬をしたえりこお姉さんは、雪のように白く細い手を大きな紙袋に入れ手早く練習用のウイッグを取出しカットの準備をしていく。

「ボク、慣れないよ……それ」

目の前にさらさらしているボクと同じ蜂蜜色をしたウイッグを凝視しながら言った。

さっきから長い髪の自分を想像してしまって恥ずかしくて、耳まで赤くなっていると思われるボクの顔をチラチラ確認しながらウイッグを慣れた手付きで被せてくる。

絶対に、楽しんでる目だ。瞳孔が星形に見えてますよ?

「はいはい、ピザ食べたんだから大人しくおもちゃ……あっ……カットの練習モデルになりなさい!」

「今、おもちゃって言いましたね? ……それに……てっ手に持っている口紅は何ですか! 化粧までするのは何故ですかー?」

 口紅の先端から出てくるえりこお姉さんのくちびると同じ色のピンクに集中しながら突っ込む。するとえりこお姉さんの潤んだ目に恥ずかしさで赤面した顔のボクが写ってしまうくらいの距離まで近付けてきて(ドキッ)とする程とっておきの真面目な顔を作って、

「……雰囲気って大切なの。お客様と本当に思いを一つにしてお客様のイメージを形にする。素敵な事でしょ?」

 素直に頷いてしまいそうな事を言う。

「はい! ソコーおかしい。おかしいよ! 雰囲気と思いがって言葉が! まったく話があってないし! それにビール飲んで練習? おかし……んっ」

迫って来る口紅を寄り目になりながらも睨み続け先端に触れるまで頑張って抗議した。

ビールを飲んでるのに止めなかったボクの唇に先っちょが触れたとき、そんな抗議なんか聞く耳持たず小悪魔的に微笑を浮かべる。えりこお姉さんは目を細め広い二重と下瞼をぷっくりさせて「くちびるをちゃんと閉じなさい……んっ」最後の言葉の「ん」に負けて唇を少だけ閉じてボクも声が漏れた。

ボクは……目を瞑る。

そっ……そんなにやさしい声を出されたら従うしかない(流されてしまう)じゃないですかぁ——……

「んっ……」

 目を瞑る事によってくちびるの感覚が増す。

 首元にえりこお姉さんの甘い吐息を感じながら、ボクのくちびるはピンクの先っちょに弄ばれる。

「っん。ひなたんの出来上がりぃー」

「さっ……さっさと済ましてださいね! ピッ……ピザを時間に換算すると十分です! はじめてくださひぃ!」

恥ずかしくて真直ぐにえりこお姉さんの顔を見れず明後日の方向を見て強情に大きな声で言ったけど噛んだ上にうわずった声を響かせてしまった。

内心、背徳な思いに苛まれながらも恥ずかしくて心臓を打つ速度が早くなる。

でも、我慢してえりこお姉さんの練習モデルになってあげる事でもっと上手いスタイリストになって欲しいと素直に願うボクも居るので今日は……今日の所は……と思う事にして目を閉じて成すがままになる事を選んだ。

カシャ……シャラッー…………

カシャ……シャラッー…………

 カシャ……シャラッー…………

リズミカルにハサミの動く甲高い音とウイッグの髪が落ちてナイロンのエプロンに擦れる音に支配される。

そんな音を聞いているとお腹も膨れているので……ここち……いいです——……

*

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夜を抱える人達の日向であって下さい。3

著/秋月十紅

  *

 

 

「あれ? 寝たの? …………五分もたってないよ?」

精妙で妖精の様なひなたが規則正しい寝息をあげる。

白い顔に細く整った眉、写す者を虜にする大きく澄んだ双眼が潜む瞼に長い睫毛。

両親をなくして以来、特に母親の影を自分に重ねてか髪もあまり短く切りたがらない「まぁひなたちゃん専属スタイリストの私としては絶対に短く切らせないけどね」心で話している事を最後に声に出した。

はっと自分が今だらしない顔をしていると思い首を振ってからハサミを丁寧に腰袋に仕舞いポーチの中の携帯電話を探る。

……チロン♪

手早く携帯カメラを用意しこっそり撮影した。

本当にひなたちゃんは可愛いなー……

頭いじるとすぐ寝ちゃうんだからキミは。

 しばらく禁断の美貌を秘めるひなたを眺める事にした。

美しい彫刻が施されている時計の針は午後十時をさしている。

ビーダーマイヤー様式に統一された家具や食器などが並ぶこの部屋は、ひなたの両親の趣味で虚飾ではない精妙さが感じられる。

その精妙さまでもがアームチェアに腰を預け少し頭を傾け眠る少女、ひなたを育てているのかと錯覚する。

ひなたは、このアンティーク家具に負けず劣らず輝きを持っている。

今は食事とカットの用意も片付けひなたが後は寝るだけで済む様にしている。

私はアームチェアの脚に腰掛けて傍で眠る『お姫さま』の顔をちらちら気にしながら小説を読んでいる。

そろそろ帰宅しようと思いカットモデルのまま眠りこけたお姫さまを見て、小声で「帰るね」とだけ耳元で囁いた。

恐らくまどろみの中で「うん。今日はありがと。暇があったら父の車を動かして……くだ……さ……」とお姫さまは掠れた声をあげ再び規則正しい寝息を見せる。

小声で「く〜〜〜たまらんー♡ 反則だよ! ひなたちゃんを見守る会のメンバーでコレを魚に早速一杯飲みに行こう♡」と携帯電話を握りしめ独り言を呟きながら静かに玄関を閉めた。

 

 エレベータが来るのを待ちながら想う。

腰辺りまで伸びた蜂蜜色のウイッグに、悪戯でピンクのバラのカチューシャを被せてきたアームチェアで眠っているひなたを。

ぼんやりあたたかなランプが精妙な『お姫さま』を照らしている事を。

 

 ひなたは————

 両親にかかわりの深かった物。人を。

大事に、大事に失わない様に精一杯生きているんだと。

 

私も——……

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夜を抱える人達の日向であって下さい。4

著/秋月十紅

   〜Confidenziale  カゾクのカタチ

 

 

……あれは騙したのかな〜? 

清清しい大型連休開けの気持ちいい朝、先日の出来事を思いながら登校している。

 小高い丘の上にあるロココ様式でドイツのヴィース巡礼聖堂に似せて建てられた白壁にオレンジの寄せ棟造りの校舎がある。窓枠など細部にわたり細かな装飾がされていて女性的で優美な印象を受けるプロセッコ・ルカーニア学園の校舎には新緑が溢れている。

それは、ひなたが住んでいる隣街にある。えりこお姉さんも唯ちゃんも通っていた学校。

素敵な環境でデザインを教えてくれる比較的珍しい学科がある事で有名。

 そんな学園の校門に一人の学生が立っているのが見えた。

眺望するかのごとく、端正な顔立ちで長い縦ロールの髪が印象深い隣のクラス委員長さんが校門でボクを通さない雰囲気を振りまきながら見下ろしている。

 勝ち気な態度でカノジョがすれ違い様に鈴を転がした様な涼やかな声を放った。

「七夜ひなたさん……。口紅」

とっさに口元を抑えてしまってから(しまった!)と思っても後の祭で、全身の体温が地面に吸い取られる様な感覚に襲われた。

 何か言わないと! 何か…… 

ボクは、必死に平静を装いながらも目が見れず流し目で、

「と……とっ隣のクラスのいいんちょさんの桜庭芽美ちゃん……ですよね?」

見事に鎌をかけられたちゃった!

ボクは、思いっきり動揺した声で顔見知りなのに変な事を口走ってしまった。

芽美ちゃんに見下ろされ、縦ロールが風に揺れる音が聞こえるくらいの沈黙に頭が白く飛ぶ。

ボクは冷や汗をかきながら回答を待つしかできない。

「この間の例の事、オフレコでお願いしますわ!」

芽美ちゃんは恐らく怒りによって頬を桜色に染めながらも直截に言い放つ。

ボクの方から本来はオフレコをお願いするのに……?

困惑を深めるボクは返す言葉もなく硬直することしか出来なかった。

少し、芽美ちゃんの大きな潤んだ瞳が揺れたけど目を吊り上げて更に言葉を続けた……

「あの……例の事です! そうしないと芽美もだまっていませんよ?」

だまっていませんよ?

冷静な判断が出来ない状態でもはっきりと警告の言葉に含まれる脅しには敏感に察知することができた。警告と同時に周りが耳の血管の悲鳴で周りの音が掻き消される。

どうしよう……どうしよう……えりこお姉さん!

そんな戸惑いに目を回していると芽美ちゃんが目を閉じている事に気付いた。

その隙に――…… とりあえず逃げよう!

ぜっ全力で駆け抜けよう!

ずれていた眼鏡を髪に引っ掛からないように両手を添えて直しながらそろ〜りと足を進めさせた瞬間、芽美ちゃんが片目だけ開けた。

目が合っちゃった……

なんか思い詰めた顔から意を決した顔へと変わっていく。

「あなたがその気ならわかりました。私も考えがあります! これからあなたは私と逢う時は……か……必ずその……おっ……女の子として逢いなさい!」

 耳の傍から聞こえる思いもしないお願いに泣きそうだった。

 

 *

 

天に一番近い所に、初夏の香りが遍く 『さらっ』とした雲が浮かんでいる。

 溢れる山の景色が美しい。

遠くで鳥のさえずりが聴こえてきそう。

 新しい命が大地に芽吹き、全てに生きる力を分かち合う空気がある。

自然に囲まれ日溜まりにボク達アウロラーレのメンバーがいる。

その場にいるすべての人を癒している—— はずだった。

 天国のかーさま。とーさま。ひなたはもう少しでそちらに伺うかもしれません!

 ぼんやりと手が届きそうな雲を見上げて下瞼に涙をためて想う。

ギュイィィィィーーーン!

強烈な加速の中でターボの過給音と唸りをあげるエンジン音を車内に響かせ、鼓膜を刺激されながら大自然の林道を駆け上がる。新緑の景色が高速に流れている。

「お……お姉さま……お願いです。……す…スピードを落して下さいませんか?」

 ふんわり甘い香りを漂わし涼しい顔でタイトなコーナーを責めているえりこお姉さんに向かってお願いをしてみた。

ボクはランチア・デルタ・インテグラーレというその道では知らない人はいない名車の助手席で長い蜂蜜色した髪の毛を震わしながら、アッシュ系ブラウン地のチュニックワンピースを着せられ腰下には三段フリルとベルトが付いてトータルに見てカッコよくて可愛くまとめられている。

その洋服のスカート部とブーツの隙間からは、膝と白い太股が露になっていて恐怖の余りに内又になって、右手でスカートの裾を摘み左手と上半身全体を使ってシートベルトにしがみついてる。

右手の力を緩めてしまうと可愛いリボンが付いたショーツが見えてしまいそうです!

余りの加速にぺろってフリルが捲り上がってしまいそうで怖い――

 えりこお姉さんはアクセル全開でターボタービンを回しブーストを楽しみながらアクセルのオン・オフで(パシュー)と高圧の空気が抜ける甲高い音を響かせ小気味良くシフトを決めていく。

「父の車達を動かして欲しいって言ったのひなたんでしょ?」

冷静に言いながら後続を気にしてかルームミラーを見て上気しているえりこお姉さん。

「……うっ……(パシュー)……うぅぅぅ……(パシュー)……ん」

 強烈な加速とWRCさながらのドリフトに喉から声が漏れる。

バックスキン生地のバケットシートへ体が埋まる度に、スカートのフリルを摘む右手を手放してシートベルトに抱きつこうか? 抱きつかないか?  

羞恥心と恐怖心で頭がいっぱいになり「あっ……うぅぅ……あっ……うぅぅ」と変な声が口から溢れながている。

他所行きのお気に入りのブランドの眼鏡が瞬きの度に涙で汚れようが、気にしていられない緊張の一時を過ごしていた。

「いいか……げ――――んに……」

あまりの恐怖にすがるように文句を言おうとえりこお姉さんの腕を掴んだ瞬間、肩ごしに見える美しい景色に言葉を失った。

うわぁー!

緑の景色が裂け太陽に輝く湖が眩しく目に飛び込んできた。

煌めく光彩に目を細くして抗議の感情も綺麗な湖に吸い込まれた。

「キレイです!」

 瞬間、歓喜の声が出る。    

暫く直進なのでみんなついて来てるか心配でドアミラーを見てみると……

ボク達が乗るボンネットが膨れ上がって力強いブリスタフェンダーのランチア・デルタ・インテグラーレの後ろに、男前な顔立ちに妖しい雰囲気を醸し出しているマセラティ・ギブリ。 

運転する唯ちゃんが手を振っている。

次に逆三角の穴に左右3個づつライトがある甲高いエンジン音を奏でるアルファロメオRZが続いているのが見えた。

「こんな凄い運転、みんな何処で覚えるのかなぁ?」

 インテグラーレのエンジン音で掻き消える様な声で問いかける。

四角いロッソ(赤)三台縦列に並んでんで走ってる! かっこいい!

そんな車達は煌めく緑の世界に赤い軌跡を描きながら山頂目指して走っている。

 ボクは、なんだか嬉しくて両足をぱたぱた動かしながら、えりこお姉さんを見つめた。


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夜を抱える人達の日向であって下さい。5

著/秋月十紅

   *

今日は爽やかな天気になって機嫌が良い。

こんな日にはいろんな高級車が訪れるからだ。

自然溢れる瑞々しい緑の木々に囲まれた湖の北部。林道の中腹に、この喫茶・ペンションがある。

山頂のロッジも例外ではなく。

ドライブ・レジャーには最適!

学校に無許可で両親の経営する桜庭開発でアルバイトをしている。

まさかこんな地元から遠く離れた場所で知り合いに逢う事なんて考えられないし♪

自慢の長い縦ロールの髪を整え(受付係のおてつだい担当・めいみ)と書かれた名札を首から下げる。

かわいい名札とは対照的にエレガントなビクトリアンの制服に身を包み大人の落ち着きを心掛けて「お泊まりの方ですね? こちらですわ」となるべくスマートに接客をこなす。

早く駐車場で車見物したいですわ!

ここはお金持ちが沢山立ち寄る場所なので休日の時間があえばここへ来ている。

「お金持ちイコール、ガイシャ! フェラーリにマセラティ〜! あの美麗で繊細なボディーにワックス掛けして触り捲って……め……芽美が妖艶なカラダのラインを磨きあげたいですわ!」

 お客を背に従えながら小さく声に出して拳を握る。

こんな爽やかなに天気がよかったら……芽美は……想像しただけでイッてしまいますわ!

爽やかな自然の中でかなり濃い妄想に耽りながらも美化して「健康的です!」と叫びたい。

学校では言えないけど、車好きの両親に囲まれて育ってしまった芽美はクルマフェチなの♪

と誰に伝えることもなく心で花を振りまく。

芽美は出来るだけ涼やかな声で案内する。

「こちらが部屋(エミール)のカギです。お客様の乗ってこられたメルセデスのキーホルダーが目印です」

心のなかでベンツと言わずに(メルセデス)と言っているだけで酔い気味に案内している。

カギを手渡そうとした時、後ろのお兄様が、

「来る途中、ランチャとマセとアルファが丘の下のコンビニに止まってたの見た?」

「めっちゃイカツかった〜ホレる」

「乗ってたのみんな若い女の子やで!」

興奮気味に話している声が聴こえた刹那、

「め……名車がくる!」

 芽美は感激のあまり声を上げてしまった。

 …………

 場が静まり、はっと芽美は唇に手を添え小さく咳払いをした。

 お客様が言葉を失い覗き込んでくる。

「あの……お嬢さん?」

「しっ失礼しました。フロントへは内線一九〇二番までお願いしますわ」

 渡しかけで止まっていた動作を再開しカギをお客様に手渡した。

去り際に、律儀にビクトリアンのかわいい制服のスカートを摘み軽くおじぎし(エミール)を後にする。

不意に素晴らしい情報が獲られた幸福感で胸がいっぱいになっていく。

 芽美は、今スキップしているかもしれませんわ♪


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夜を抱える人達の日向であって下さい。6

著/秋月十紅

  * 

 

 ゴツッ! 車内にえりこお姉さんの短い悲鳴と共に鈍い音が響く。

景色を楽しめるくらいに速度を落してくれた事によって、完璧に気を抜き仰のいていた所いきなり車体が上下に揺れ、ボクは激しくダッシュボードに膝をぶつけた。  

「イタっ……」

スカートのふりふりから手を放し、さっきまで白かった膝に手をあてて痛みに堪える。

頬を膨らませてすりすり撫で回しながら甘い香りのする方を見た。

「ごめん! 大丈夫だった? 余りにもひなたちゃんを見過ぎ……ふっ不注意に石を踏んでしまって!」

 えりこお姉さんは右手をぶんぶん振って言い訳を始めた。

 本当に、嘘が付けない人ですね。

「あっ……もしかして。ちらちらルームミラー見てたの後ろの唯ちゃんや綾乃さん達を見てたんじゃないんですね? ……ひゃっ……あっくっ!」

半眼で正直者のえりこお姉さんの失言を聞き逃さず突っ込むと同時に無防備なボクの白い太股の間にえりこお姉さんのつるつるした手が差込まれた。 

「誤魔化そうとして、え……エッチな事しないでください」

耳まで真っ赤になる恥ずかしさに耐え切れず太股を締め付けズレた眼鏡を片手で直しながらもう片方の手で打った膝を摩った。

膝みたいなら見せるのに、いろいろ恥ずかしいゾーンなんだからそこは……

「あっ……赤くなってるじゃないっ! 顔もそうだけど可愛いお膝が!」

「お膝って……あはは」

あたりまえだってばー わざとらしく笑い恥ずかしさを誤魔化す。

ちょっと擦りむいた膝をえりこお姉さんは、綺麗な細い手で被せるように包んでくれている。

「途中、レストランがあるからそこで手当てと、早めのランチにしましょう?」

えりこお姉さんの手を見ているとやさしい声が耳に入る。

 林道脇のロードサインに[Verbena]ヴェルベーナ/レストラン・ペンションという看板があがっている。

ヴィクトリアン王朝のイメージを与えてくれる素敵なデザインに思わず目を引かれた。

 

終止安定した走りに徹底したインテグラーレ。

ゆっくり緑が流れ落ち着きを取り戻す。

あー良い感じ♪

「あっ! 何か西欧情緒ある建物か見えて来ました! あれがヴェルベーナじゃないですか?」

自分でもはしゃいでいると分かる声を出し車窓から乗り出さんばかりに報告した。

「あれは、十九世紀のビクトリアン王朝時代の建物をモチーフにしたらしいよ。……綾乃のお得意様なんだって」

やわらかく優しい声でえりこお姉さんは教えてくれて、ウインカーを灯しシフトダウンをカッコ良くきめランチア独特なエンジン音を響かせる。

インテグラーレがウインカーを灯すと同時に後続のロッソ達は順にパッシングとハザードを使い了承した事を互いに合図し確かめあっている。

みんな胸がキュンってなる位カッコイイです!

天然の大小の石をバランスよく積み上げた門柱にアイアンで出来たアーチを潜ると、淡く濃淡をつけたベージュ色の洗い出し仕上げの駐車場があらわれた。

「豪奢な感じですねー」

格式高い空間の演出にボク達は感動を漏らした。

「さすがに桜庭開発。コンセプトがしっかりしたいい仕事してるね」

同じ学校の同じデザイン課程を卒業したえりこお姉さんは、ボクの視点でやさしく同調してくれた。

「あはは……」

 ――幸せです。

「なにニコニコしてるの?」

えりこお姉さんが優しく目を細めて聞いてくる。

さらさらと長い髪がえりこお姉さんの肩口から流れ、煌めいた。

ドキン…… ボクの華奢な胸を小さく叩く音が鳴る。

駐車スペースを探しているえりこお姉さんの耳のキラキラを見ながら素直に伝える。

「えりこお姉さんと家族になれている気がして幸せです」

「ふふっ……ひなたが素直に育って私も幸せよ♡」

するとボクの二の腕あたりを掴みながらやわらかな笑顔で本当に幸せそうに言ってくれた。

——みんな失いたくありません。

少し照れてしまって、窓の外に目をやる。

「あっ! 空冷のポルシェですよ! えりこお姉さん!」

「あそこには、ロータスエリーゼが止まってる!」 

ヴェルベーナの駐車場は、ポルシェやロータスなどセカンドカー空間とファミリーカー空間に二分されて停まっていた。

ランチア・デルタ・インテグラーレとマセラティ・ギブリと幌全開のアルファロメオRZはそれぞれ空いている所へ。

早速、女性ばかりが運転する四角く赤い車が続けて入ってきて「どういう人達だろ?」と好奇の目が向けられる。

実はこの三台は、両親が所有していた車で、遺産相続時に(両親の温もりがある)と感じたので手元に置いておく事にした。

強烈な個性が吹き込まれた命あるデザイン。どれもそれぞれに独特の魅力を放つ車として有名なのだ。ときどき動かさないと故障の原因になるのでこうして天気の良い日を見付けてはドライブに連れて行ってもらう事にしている。

 

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夜を抱える人達の日向であって下さい。7

著・秋月十紅

 

ランチア・デルタ・インテグラーレ特有のアイドリングの音を聴きながらお留守番。

アッシュ系ブラウン地のチュニックワンピース、腰下には三段フリルとベルトが付いてカッコよくて可愛いく可憐な姿をしたボクを残して、えりこお姉さんは絆創膏をレストランの人に貰いに行ってくれている。

 ボクは、砂の音とブーツの底が固い地面を践みつける乾いた音を楽しむ様に外へ出た。

 擦りむいた右の膝とスカートの裾を気にしながら激走から逃れられた安堵から、湖の輝きや自然の煌めきに負けない精一杯の笑顔全開で「にこっ♡」と微笑みながらインテグラーレから飛び出すように。

……何だかちょっと見せ物になってますってば! 早く帰って来てください!

 幸い自分の住む地域から遠方なので知り合いに会う危険はないと思うけど。

万が一に備えて車のドアを鏡にして、レースのコサージュとフリルが付いたキャスケットを深く被り自分が女装しているのが変装だと自分で突っ込みながら万全を尽す。涙で汚れた眼鏡を綺麗に拭いてからケースにしまう。

さらさら長い蜂蜜色の髪に、ピンクの口紅。ほんのり化粧までしている。

「変装完璧っ」

満足げにキャスケットを叩き少し胸をはり気合いを入れえりこお姉さんが帰ってくるまで少し辺りを探検してみる事にした。

とりあえずエンジンを切ってから点在するビクトリアン様式の建物を見渡す。

それぞれ八角柱の塔があるのが一番の特徴で優美さ溢れる装飾が取付けてあり、上品な可愛さが演出されて森に溶け込むように建ててあった。

「何か、お姫さまの別荘みたいです……」

 そんな言葉が自然に口から出ていた。

「あらっ? 自分の事言ってるの? ふふっ」

「ち……違いますよ綾乃さん!」

ボクは、両目を閉じ精一杯否定した。怒りと恥ずかしさを込めて。

大人っぽく笑う貸衣裳[VESTIRE]ヴェスティーレの若い社長へ振り向く。

ボクのキャスケットに付いたコサージュを触りながら話しかけて来た。

綾乃さんはアルファロメオのドライブにあわせて、小振りなアルファロメオの蛇のヘアピンで髪を上品にとめてある。洋服は、胸の開いたライトブラウンのエレガントな袖なしカットソーにブラック系のフリルたっぷりのシフォンブラウスを少し崩し気味に着て、ブラックのロングスカートを履く。

ボクのかーさまと幼馴染で小さい頃からボクと遊んでくれている特別な人。

朗らかな雰囲気に抜群のプロポーション、突出された大きな胸がいつも目のやり場に困る。

 目線に大きなバストだから……です。

「あっ……ひなたん顔真っ赤にして! 綾乃! そのハレンチな胸隠しなさい!」

ビシッと綾乃さんのバストを射ぬく様に指を挿しながら絆創膏と湿らせたハンカチを持ってえりこお姉さんが戻ってきてくれた。

「ひなたを見守る会メンバーなんだから大きな胸に挟んで見守ろうとしただけなのにぃーふふっ」

楽しそうな表情で自分の頬を軽く触って甘えた声を出している。

悪戯を考えている時は(頬を触る)癖がある綾乃さん。

「バカは放っておいて、ひなた膝見せて」

「ふふっ……独占欲? ダーーー……えりこ足! 足!」

 ボクに見えない角度でえりこお姉さんが体罰を与えているのが想像できた。

大きな声を出して茶色の瞳を潤ませた綾乃さんは、ボクに助けを求めて見ている。

…………

「ん?」

 悪戯を考えている綾乃さんを一瞥してスルー。

そして、絆創膏を貼りやすくするため脚の力を弱める。

綾乃さんが(ちっ)と舌打ちするのが聞こえたけど屈んでいるえりこお姉さんの方に集中する。

「……すみません。お願いします」

「……いいのよ。もともと私のせいなんだから」

とびっきりの優しいお姉さん声が脚元から発せられる。

絆創膏をやわらかそうなくちびるに挟み、湿ったハンカチで患部を拭ってくれている。

「あっ……」

刺激に声が出る。

す…………少し染みます。

「……ははんひははい」

 多分、我慢しなさい? と言い終えてから、くちびるから絆創膏を手に取る。

「ひゃっ! ……くすぐったいよ」

ボクの下半身に、冷たい指と熱い吐息が太股と患部を襲う。

我慢できずにボクは声を出す。

「ダメ……我慢しなさい! オンナノコじゃないんでしょ?」

さらに熱い吐息と薄い布越しの刺激に襲われる。

ゆっくり触らないで!

早く動かしてよ!

「が……我慢できないよ! ……ッ痛いっっ! や……優しくしてよ! お願いします」

患部をゆっくり刺激され、声を震わせながら痛さで体を少し引く。

ボクは涙目で、ふわふわの甘い香りのするえりこお姉さんに訴えた。

「ダメ! ……もう少しだから♡」

 逃がさないようにお尻をつかんで最後までしようとする。

「んあっあぁぁあ……」

最後に患部をギュッっと摘まれ嬌声に似た声を出して果てる。

屈んだままのえりこお姉さんの太股の上に濡れたハンカチが被せられ、手に取っている絆創膏を片手で器用に剥いた。 

「はい。おしまい♡」

 摘まれた患部からの痺れる痛さに耐えるとうさぎのプリントされた可愛い絆創膏が貼られた。

お尻を触られたままなので、少し恥ずかしくなり目を逸らしたら何か頬を染めた綾乃さんと目が合った。ドキドキしているのに勘付かれたのか、頬に手をあてたまま笑顔でこちらを見て近づいてきた。

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夜を抱える人達の日向であって下さい。8

著/秋月十紅

えっ? 悪戯の対象はボクなんですか? 

えりこお姉さんにお尻を捕まえらたままでいるので逃げることができず目線にある綾乃さんの突き出たやわらかい部分が迫ってきた。

「……んんっ……やめてくだひゃいいー!」

 さらさらのシフォンブラウスを掻き分け胸の開いたライトブラウンの袖なしカットソーに安易に達する。あたたかく、やわらかな感触が顔いっぱいに拡がった。

 ボクは、この人達の一応オーナーなのに……おもちゃですよ。 これじゃ…… 

「めっ! 猫見たいにバタバタしないの! ……って ……綾乃! 何してるの!」

 ようやく気付いてくれた、えりこお姉さんの声が遠くで聴こえた。

 ボクは幼児ですか? 

「バスト責めよ。ふふっ」

調教? 

は……破廉恥です!

て……天国のかーさま……とーさま……ボクは…………堕ちそう……です。

ボクはこのお姉さん達の中で素敵なオトナになれるのでしょうか?

やわらかい闇から開放され、青の世界で悩む。

 視界が通常の色彩を取り戻すと近くの車止めに腰掛ける傍観者がいた。

マセラティ・ギブリを運転していたおしゃれなパーマスタイルにパリッとしたスーツに身を包んだ小柄な女性が三角座りをして小さく手を振っている。  

事の経過を客観的に楽しんいた様子。キャリアウーマンみたいな雰囲気なのに子供っぽく屈託のない笑顔を向けてくれている。

「唯ちゃん見てないでとめてよ……」

 唇を尖らせて言うけど傍観者を決め込んでいた小柄の唯ちゃんは、近くのロータスエリーゼに乗っていた見ず知らずのお兄さん達をつかまえて「百合だね……エロいね」「間違いないっスね」「いいっスね」という話していた。

自分で貼ればよかったです。

甘えたボクが悪かったです。

 その場に居づらくなったボクは、後悔しながらも三姉妹から目の届く様にブーツの踵から鳴る乾いた音が楽しくて少し高い位置からわざと践み降ろしながら石畳を歩く。

……末っ子はみんなおもちゃなのかな?

 少し歩くと大きなテラスがあるレストランが見えてきた。

同じ位置に同じくらいのコブを作った美麗な三人の女性とボクはそこへランチを採る為に向かって歩いている。

「ここのヴィクトリアンの制服かわいいって噂なのよー」

キャスケットの天辺をいじりながらえりこお姉さん。

上品に装飾された窓から見える店内に可愛い制服を纏ったウエイトレスさんたちが優雅にそれぞれの仕事をこなしているのが見えた。

「ウチのをリースしてもらってるんだ〜ふふっ」

 綾乃さんの会社が、制服をリースしてるのかぁ。

ボクは、後ろ手にぼんやり窓の中の人を見ながら歩く。

……確かに可愛い。

ローズの花柄が入ったダークボルドーの生地にウエストにリボンベルトがついたドレス。

リボンベルトからスカートの裾までふわっと広がっている。

「さっ! 入るよ!」

 えりこお姉さんがささっとレストランのエントランスまで駆けていき手を振っている。

職人の技が光る白くペイントされた木彫りケーシングが出迎えて、香ばしい香りが辺りを包んでいる。 

『いらっしゃいませー』

ケーシングを潜ると一斉に声がかかる。

「どうぞ」

先程のヴィクトリアンの制服に身を包まれた女性が案内してくれた。

ほぼ開店と同時だった為、他のお客様がいないみたい。

案内されたダイニングテーブルの天板には、見事な花柄の象嵌が入っていてゴブラン織りが張られた手仕事感あふれる椅子に腰掛る事を促された。

象嵌の入った天板には、オフホワイトの上品な花柄のランチョマットが敷かれている。

そして、銀のフォークとナイフが綺麗に並んでいる。

ウエイトレスのお姉さんが手際よくお冷をコースターの上に、お絞りを、ランチメニューを手早くそれぞれの手元に置き「女性四名様でご来店いただけましたので、レディースコースがお勧めですが」と案内してくださった。

ボクは完璧に女性ですか? ウエイトレスのお姉さん……と心で拗ねる。

「じゃ……それでいい?」

 一番ウエイトレスさんに近いえりこお姉さんが即決を求める。

「お任せするわ。ふふっ」

 言ってボクの顔をジッと見てくる綾乃さん。

「ボ……わたしもそれでいいです」

下を向いてボクも続く。

…………なんか恥ずかしいから見ないでよぉー。

唇だけ尖らせてから、上目遣いで綾乃さんを睨む。

も〜見ないでってばー

「私も同じ物でいいよ」

唯ちゃんは、パーマスタイルの髪から見せるスーツの肩口を震わしながら同調した。

そわそわして変な動きに写ったのかウエイトレスのお姉さんまでボクに注目する。

み……見るなぁ〜……

「しょ食後のデザートはどうなさいますか? 苺のショートケーキ、スライスされたチョコがのっているガトーショコラ、プレーンなチーズケーキ、パティシエ特製マカロンがお選らべ頂けますが?」

写真を見せながら順を追ってウエイトレスのお姉さんは説明してくれた。

「じゃ私から、苺のショートケーキ」

 定番を外さないえりこお姉さん。

「チーズケーキ。ふふっ」

 甘いものが少し苦手な綾乃さん。

「私も苺のショートケーキで……」

いつも苺をくれる唯ちゃん。

今日も期待していいんですよね?

「ボクは「「「「マカロン」」」で」

全員声を揃えて言ってからみんな笑う。

「いいじゃないかぁー 美味しいんですよ!」

そして、本当の家族の様なあたたかな空気に包まれたていくテーブルにボクは儚い夢を重ねてみる。

 みんなをあたたかく見守る長女は、やっぱり綾乃さん。

ちょっとわがままな二女は唯ちゃんで、しっかりものの三女はえりこお姉さんかなぁー。

こんな格好させられているけど、いつも一人で生活しているからみんなと一緒は本当に楽しい。

今日と明日は、存分に独占できる! たっぷり甘えちゃおー♡

あたたかい日射しを感じながら楽しい食事の時間は進んでいく。

少し拗ねながもボクは、マカロンの美味しさを永遠と説明していく事を忘れずに……。 


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夜を抱える人達の日向であって下さい。9

著/秋月十紅

「えりこお姉さんの大きな苺ですねー」

「そんなにもの欲しそうにしてもあげませーん」

並みいる女性を掻き分けても尚トップクラスの美しさを備えているひなたは私の苺を欲しそうに目を輝かせている。

口をだらしなくあけちゃって…… 可愛い。

見渡すと食事を始めて二時間くらいたち昼の賑わいを見せる店内。

苺を凝視しているひなたを無視して見事な装飾が施されたフォークに甘そうな蜜が絡んだ苺を突き刺し、行動予定表を片手に午後の予定を話す。

「このまま上まで駆け上がってチェックインしてからブラブラ散策する?」

我ながら簡潔でわかりやすい説明に惚れ惚れしながら、苺を口にくわえる。

それぞれ食事が終わりデザートを楽しみながら聞いている。

みんなひなたを見ているのに気付き自分もつられて見ると——

苺が貰えなくて落胆してると思ってたけどひなたは、花びらをまき散らす笑顔でマカロンを口に運んでいる。、上下に合わさったこんがり焼かれた部分からはみ出た甘い部分を丁寧に可愛い舌ですくうように舐めている——……

これには、お姉さんもやられそう……苺をくわえたたまま、ひなたを魅入る。

か……可愛すぎる!

自然にひなたがマカロンを口に運ぶと同時に私もつられて口を開けて苺を落してしまいそうになる。

「ふふっ」

チーズケーキを早々と平らげ、ひなたの観察に専念している綾乃。

「やらしいー! えりこ顔真っ赤。それとよだれ……」

目敏く唯は、言い終えるとジッっと私の顔を睨んでくる。

「くっ……何よ? みんなだってだらしない顔してるじゃない!」

 自分の頬を押え、気になるみんなの『お姫さま』を見た。 

ひなたは、相変わらず不思議な食べ方を繰り返している。

みんなが見ていると気付かずに。

マカロンがなくなり落胆した表情へ変わっていく。

紅茶を上品に飲みほしてから皆の愛でる視線に気付いたみたいに頬を一気に染めた。

「あ〜……何ですかぁ?」

 ひなたが紅茶を飲み干して声をあげた瞬間。 

「むむっぐぐぐっっっ!」

すかさず唯がひなたの口に苺を押し込んだ。

なんですかぁの「あ」のタイミングで……

「もう唯っ! やめなさい! だっ大丈夫?」

 私は、大変満足げな顔を浮かべた唯を叱り、びっくりした顔をしているひなたを窺う。

「……苺くわえたまま首を降らなくてもいいからね」

コクコク首を縦に振るひなたに突っ込みを入れてから、ほぼみんな食事を終え『歳の離れた妹』を魚に遊びはじめようとしている。

コホン! 咳払いを入れ仕切り直す。

「みんな午後の予定を聞きなさい!」

 

今さらながら私達「ひなたを見守る会」メンバーで大型連休を利用して旅行に来ている。

私のストックしている「ひなたん画像」で脅迫……日頃の感謝の証として女装させて連れ出そう計画が発動。

嫌がるひなたを笑顔で諭し、みんなで押さえつけ上から下まで完璧な女の子に仕上げました。髪は私がセットし、服は綾乃が、イヤリングと化粧は唯が担当。

素直に従ったひなたは、涙を浮かべ歯を食いしばり大の字でなすがままだった。

そして女性用下着を履かすためには、大きく引き延ばされた写真「蜂蜜色のウイッグにピンクのバラのカチューシャかぶせられてアームチェアで眠っている妖精」が効果てきめん。

見たら自分からスカートを托しあげて女性用下着を奪い取り部屋の端の方まで行き「見ないでよ! お願いだから」と前屈みになって真っ赤っかにした顔で懇願していた。

唯も綾乃も、もちろん私も目を皿の様に見開き焼き付けた。

「いっいつか仕返ししてやる!」と訴えながらリボンの付いたショーツを履いた。

元々、女の子としか見えない容姿。

いや……

女の子でないはずがない。

アレがあるのか? ないのか? 見た事がないけど。

見たまま貧乳・幼児体型の極上美少女にしか見えない。

普段から。

本人には言えないけど……

「大丈夫。バレない様に遠くへ行くから」

少しは男らしい所はあるよ的な含みを入れて納得をさせて連れ出しのだ。

 

「……と言う訳で、そろそろ頂上目指してロッジへ向かいましょう! くれぐれも安全運転で!」

私の号令に少し間が空き、「おー!」って歓声をあがった。

ひなたに怪我させたくせに! という冷たい視線が集ったけど快く了承してくれた。





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夜を抱える人達の日向であって下さい。10

著/秋月十紅

 *

 

朝のチェックインの案内が一段落した昼時。

肌触りの良いコール天生地が使われローズの花柄が入ったダークボルドーの生地のドレス。

ウエストリボンベルトからスカートの裾までふわっと広がっているここの制服。

一応、休憩中なので薄手のカーディガンを羽織る。

淡く濃淡をつけたベージュ色の洗い出し仕上げの駐車場で、自慢の長い縦ロールの髪を揺らして物色を始める。

デジカメ片手に……

「ああっ!」

「おおっ!」

「ん〜〜!」

回りを気にせずに思い行くまで車見物している。

遠方なので知人には逢いませんわー。と自分に言い聞かせ。

ジ——————……クオン……クオン……

このジーという燃料ポンプの音は! この軽めのセルモータの回る音は!

絶頂に達するかの様に気持ちが上り詰める。

ボボボボーーーブォォォォン!

低く響く特別な芽生えの音に簡明する。この妖しげな四本出しマフラーの排気音は!

聴こえたと同時に絶叫と共に走り出す。

「ビトルボエンジン! マセラティ!」

 大声を出して駆け寄っていく芽美に驚きを隠せない小柄でスーツを身に纏ったキャリアウーマン風の女性が目を丸めている。

「ギ……ギブリ珍しいでしょ?」

驚かせてしまった芽美を咎めもしないでスーツのボタンを触り気さくに話し掛けてくれた。

座高からするとそんなに背が高くないんだろうと想像がつく。

オシャレなパーマスタイルで素敵な印象を受けた。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」

またやってしまいましたわ。

反省し言葉の通り素直に頭を深く下げた。

あっ制服のままだった。

「もっ申し訳ございません」

 再度頭をさげる。

「……いいよ。珍しいものね。それよりギブリ好きなの?」

 小柄な女性は大人の優雅さあふれる雰囲気なのに子供っぽく屈託のない笑顔で芽美を思いやってくれた。

「はい! 特にデ・トマソ期のマセラティが……」

マニアックな話を初対面の人に話している自分が恥ずかしいのか、年上の優雅さあふれる雰囲気なのに屈託のない笑顔にあてられたのか頬に熱を持つ。

「詳しいんだねー。中も見る?」

……この方、やさしいですわ。

見ず知らずの他人を車の中まで案内してくださるなんて!

ありがとうございます!

「是非! お願いしますわ」

 駆け足で助手席の方に回り言葉に甘える事にした。

「うわ〜〜綺麗ですねー。天井も見える所殆どが革なんですねー。コレクターズコンディションですねこのマセは!」

ロッソ・マセラティにタンレザーという派手な組み合せ。

デ・トマソ期のマセラティ特有の金時計が輝くレザーとウッドの世界。

目に飛び込むもの全てがゴージャスに仕立てられている。

デ・トマソ期のマセラティはレザーとウッドの綺麗な固体は皆無と聞く昨今、かなりの極上車であると確信した。

「感動して貰って嬉しいわ。ここの子だよね? どう? ツレがいるから少しだけなら駐車場グルッと回る?」

「ぜっ……是非! お姉様!」

カチッと行儀よくシートベルトをしめ期待を胸に、手を握る。

 滅多にないチャンスを逃す訳にはいかないので甘える事にした。

「じゃ行くよ。 くー 縦ロール娘に『お姉様』なんて言われては女名利に尽きる!」

優しい手付きでゆっくり慎重にDレンジにシフトしギアを入れるお姉様。

カッコイイ!

少し腰が沈む。

期待に胸が高鳴る。

ゴニョゴニョ聞こえましたが………………いよいよ芽美も初体験♡

気持ちを抑えながら胸の前に手を持っていき短く返事をする。 

 スーツの生地が擦れる音が足元から聞こえ、ふんわりとブレーキを緩めるのが見える。

外は緑溢れる心地よい自然。

外とは別世界を主張するレザーの甘い香り、綺麗に磨かれたウッドパーツに包まれながら緩やかに発進する。

 






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